研究課題/領域番号 |
20K00534
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研究機関 | 北海道博物館 |
研究代表者 |
遠藤 志保 北海道博物館, アイヌ民族文化研究センター, 研究主査 (90761635)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 口承文学 / 話型 |
研究実績の概要 |
本年度は、アイヌ口承文学の諸ジャンルのうち、英雄叙事詩に着目し、その話型記述の方法について試みた。 話型の分類やその分析は、主に昔話研究において進んできた。その他のジャンルの口承文学の分析においても、話型という概念自体は有用だが、昔話の分析を目的として蓄積されてきた様々な話型は、他のジャンルにおいてそのまま当てはめることはできず、何かしらの別の体系を立てる必要がある。 アイヌ口承文学においても、昔話における話型の記述方法をそのまま適用することは難しいと考えた。そこで、本年度は特に英雄叙事詩というジャンルについて、具体的なテキストを取り上げ、どのように話型を記述できるか試行した。取り上げたのは、現段階で5種のバリエーションの存在が確認できている「kutune sirka(虎杖丸の曲)」と呼ばれる英雄叙事詩である。 アイヌ英雄叙事詩は昔話よりもモチーフが限られていると考えられることから、昔話研究で行われるモチーフの構成による話型記述ではなく、「『主語+述語』という単位」である「事項」の構成によって記載される「緩やかな話型」(廣田收、2011「日本の古典と昔話―共有される話型をめぐって―」花部英雄・松本孝三編『語りの講座昔話を知る』三弥井書店:p.71)という考え方を導入して、アイヌ英雄叙事詩の話型記述を試行した。 そのうえで、アイヌ英雄叙事詩においては、ひとつの物語のなかで複数の「敵対者」「援助者」が現れることから、他の物語には出てこないキーアイテム(呪具)やキーパーソン(敵対者・援助者)を設定し、そのキーになるものと主人公との関係を軸において事項を拾うなど、アイヌ英雄叙事詩のストーリーの特徴に沿う形での登場人物及び「事項」の記述について試行した。 これにより、アイヌ口承文芸のジャンルのひとつである英雄叙事詩について、話型を記述するためのおおよその方針を立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画においては、本年度はジャンルごとにテキストの話型の記述を行う予定であった。 実際には、本年度は、アイヌ口承文学の特徴に根差した記述形式を定める作業に想定よりも時間がかかったことで、テキストの話型の記述についてはほとんど着手できず、全体として進捗としては遅れることになった。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画で策定した手順どおりに、先行文献である『通観』の典型話を対象として、アイヌ口承文学のジャンルごとに話型を記述する作業を進める。 さらに、当初計画では想定していなかったが、前年度に行った「虎杖丸の曲」を例にしてのアイヌ英雄叙事詩における話型記述の試みについて、報告書を刊行することを、追加して計画している。アイヌ英雄叙事詩は他のジャンルと比べて長大であるため、5種類のバリエーションに及ぶテキストを具体的に列挙・比較しての成果発表となると、紙幅の都合から報告書の作成が最適となると考えたことにより、当初計画からの変更を考えたものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた人件費が使用できなかったことが理由である。 データ入力のために人件費の使用を予定していたが、先行文献に記載されている話型のデータを入力することよりも、具体的なテキストの分析の作業に注力したことにより、予定よりもデータ入力のために人件費を使用しなかったことによる。 次年度の人件費使用にあたっては、計画どおりに実施できるものと見込んでいるほか、当初計画としては想定していなかったこととして、報告書の刊行を追加して計画しており、次年度使用とした分については、このような成果発表等として使用する計画である。
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