研究課題/領域番号 |
20K00537
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池上 嘉彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 名誉教授 (90012327)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 言語類型論 / 事態把握 / <スル的>/<ナル的>言語 / 動詞<なる> / <推移>と<出現> |
研究実績の概要 |
日本語動詞「なる」、および、日本語以外の言語における「なる」相当の動詞の両面での<生態>調査を並行して進める予定であったが、コロナ・ウィルス感染拡大の状況に十分な改善が見られないまま、本年度も上古から中古にいあけての日本語文献についての実証的な調査は継続された。 一方、国内・国外の出版物、海外の学会で寄稿、ないし発表の必要が生じたために、あらためて日本語と多言語の動詞「ナル」を包括的に記述しうるような理論的枠組みを想定するという課題とまともに乗り組むこととなり、そのためには「(Xカラ)Yガナル」(<出現>、<生起>)と「XガYニナル」(<移行>、<推移>)を参照枠とするのが必要、かつ有効という点で確信が得られた。 日本語動詞「なる」の場合、上古においては<自然的>な<出現>/<生起>の過程として、<人為的>な<出現>、<生起>の過程をいう動詞「つくる」と対立、そして両者の中間段階として「うまれる」ー「うむ」が入って<なる>ー<うまれる>ー<うむ>ー<つくる>という系列を構成するのが読み取れるが、イゾの「なる」は<移行>/<推移>型の事態把握への傾斜が強まり、本来の<出現>/<生起>型の意味合いも、本来<移行>/<推移>型も(「...になる」ではなく)「...となる」という表現に多く継承されるという状況へと進んでいく。(「10.研究発表」に記載の論文参照。) この他にも、英文による論文がドイツの知己の教授の記念論文集に刊行予定ですでに手稿を送付済み。さらにもっと詳しい日本語による論述が関連研究ブループによる論文集(「7.現在までの進捗状況」参照)に収録予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
海外出張が困難な状況が続き、外国語での「なる」相当動詞の生態を有能な(できれば日本語とバイリンガルの)インフォーマントとの共同討議で進めることが叶わず、大変残念である。また、2020年8月に予定されていた「ヨーロッパ日本研究学会」での発表も、1年延期の上、結局2021年にオンライン実施ということになったが、直接対面による有能なインフォーマント探しの機会が失われたのも残念であった。 他方、信頼できる稿本にもとづいて編集された古典作品の購入は比較的自由にできたので、本年度は上古から中古にかけての時期の動詞「なる」の用例の検討についてある程度継続することができた。 さらに、関連するテーマについて研究を進めている科研費(基礎研究(C)16K00217:代表者:守屋三千代)グループのメンバーと現時点での研究成果を共同公開する計画が出され、2022年度中の刊行を目標に準備を始めることが決まり、オンラインで原稿の読み合わせの会合がすでに2回持たれた。2022年度は、この計画に関わる研究活動が一つの中心になる。
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今後の研究の推進方策 |
ごく最近顕在化してきたウクライナをめぐる危機的状況ーこれもヨーロッパへの渡航に対するかなりな制約になる。 関連テーマで科研費に基づく研究を進めているグループ(基礎研究(C) 16K00216)のメンバーとの研究テーマについての成果を書物としての公開するため、それに向けての共同での討議、検討の作業が中心となる。 海外出張が困難という状況が改善されない限りは、もっぱら日本語における「なる」の生態調査研究を近代にまで拡げて実施すること、および、研究成果の公開の促進という方向が中心になる。資料とする日本語文献の購入は科研費によってかなり進めることができるので、積極的に進めたい。大学図書館の利用も制限なく行えるようになることを期待する。
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次年度使用額が生じた理由 |
何よりも自由な海外出張が出来ない状況の継続が大きな足枷となっている。コロナ感染の国際的な拡大の収束とウクライナ情勢の安定化を願うばかりである。(もし、引き続いて海外渡航が不可能になるような場合には、研究成果を発表するために計画されている書物(項目5.参照)の編集過程での会合に研究グループの他の研究者で旅費を必要とする場合に支給するという転用の可能性を考えてみたい。)
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