研究課題/領域番号 |
20K00543
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
小林 亜希子 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (60403466)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 一致 / 過去分詞 / 極小主義 / ラベル |
研究実績の概要 |
フランス語とイタリア語では,ある条件のもとで過去分詞が目的語と性・数の一致を起こすことがある。2020年度はこの一致の統語メカニズムを論じた論文を執筆した。現在(2021年4月末日)は専門業者に英文校閲をしてもらっており,5月上旬には専門誌に投稿する予定である。 論文の概要は以下のとおりである。統語計算は最小のコストで行われるため,[過去分詞-目的語]の構造で一致が起こるとき,過去分詞は目的語名詞句のうち,「最上位の主要部がもつφ値」とのみ一致する。それはNの上のNumber主要部が担う「数」の値である。過去分詞は数と性の両方の値が与えられないと屈折形が決まらないので,この場合,過去分詞は一致形をもつことができない。一方,目的語がいわゆるSPEC-vを経由して移動すると,過去分詞はこの位置の目的語(のコピー)と一致することもできるようになる。この一致はラベル付けともかかわるため,より豊かな一致が必要となる。すなわち,目的語の数・性の値がともに与えられ,過去分詞は一致形をもつことになる。移動する目的語と過去分詞との一致は多くの場合随意的であるが,その随意性は,上の2種類の一致のどちらも自由に選べることから帰結する。 一致が義務的である場合や,フランス語とイタリア語で一致のパターンが異なる場合もあるが,それらにも原理的な説明を与えることができる。まず,目的語(内項)が主語位置に移動するときは過去分詞との一致が義務的である。これは,いわゆるTP節点のラベル付けのために,主語との豊かな一致が起こることと関わる。また,フランス語とイタリア語の3人称代名詞の形態的違いから,代名詞目的語と過去分詞の一致パターンが異なることが帰結する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,2020年度には海外調査を行って新たなデータを発掘し,それを含めた分析を考える予定であった。コロナ禍によりそれはかなわず,理論重視の研究に切り替えざるをえなかった。つまり,すでに知られているデータセットを,最新の理論をもちいて分析しなおし,より原理的な説明を与えるという方向である。扱うデータの範囲は狭まったが,データを絞ったぶん研究が進展した面もある。2021年度にかけて執筆する予定だった論文は,すでに第1稿を書き終え,5月には専門誌に投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では,2021年度に学会発表などでフィードバックを得ながら1本目の論文を書いていく予定であった。しかし予定の論文はすでに脱稿したので,2021年度はもう一つの計画である,「ロマンス語以外の一致現象」の調査に集中したいと考えている。こちらも文献調査を主にする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により当初予定の海外調査および学会出張ができなかったため,当初予算よりも少ない執行額となった。今年度も引き続き文献調査を主に行うため,文献の購入などに予算をあてる予定である。
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