研究課題/領域番号 |
20K00546
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
秋谷 裕幸 愛媛大学, 法文学部, 教授 (10263964)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 中国語 / びん語 / びん東区方言群 / 音韻史 / 祖語再構 |
研究実績の概要 |
今年度は本研究課題最初の年であり、申請書に記載した研究スケジュールでは、浙江省慈溪市のびん東区方言の方言島、燕話の調査を二回行うことが主たる目標であった。びん東区方言音韻史を総合的に描き出すためには、このような方言島のデータも取り込むべきと考えるからである。ところがその後、コロナ禍が拡大の一途をたどり、中国への渡航、そして現地でのフィールドワークが不可能となり、従来のようなフィールドワークがいつ再開できるかを見通すことがむずかしい状況に置かれ続けている。 このような現状に鑑み、本年度は研究内容を二つに絞った。(1)びん東区方言音韻史に関する論文の執筆、および(2)中国語方言学関連図書の収集と閲読、である。 (1)びん東区方言音韻史に関連する論文としては「原始びん語裏的舌葉音声母及其相関問題(びん祖語における硬口蓋歯茎閉鎖音声母およびそれと関連する諸問題)」を執筆した。Jerry Norman教授が再構したびん祖語声母のうち、歯茎閉鎖音声母は歯茎閉鎖音と硬口蓋歯茎閉鎖音の二種類に区別しなければならないことを、びん東区方言のデータも援用しつつ論じた。びん東区方言祖語においても、「双」「窗」などに硬口蓋歯茎閉鎖音そして硬口蓋歯茎摩擦音の痕跡が残存していた可能性がある。なお、この論文は2021年4月27日付けで『語言学論叢』(北京大学中文系)に受理され、同誌に掲載される運びとなった。 (2)中国語方言学関連図書を、方言調査報告を中心に収集し、閲読した。『江西省湖口方言研究』『如皋話地図』『岳陽方言』『びん語福寧片伝統韻書音系研究』等である。びん東区方言ではなくとも、その音韻史や語彙史を検討する上で、このような周辺方言に関する理解を深めておくことは重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は、申請書に記載した研究スケジュールでは、浙江省慈溪市のびん東区方言の方言島、燕話の調査を二回行うことになっていた。ところが、拡大の一途をたどったコロナ禍により、中国への渡航、そして現地でのフィールドワークが不可能となり、計画通りの研究を実施することが不可能となったからである。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の成果として予定している『びん東区方言音韻史研究』には、新調査方言データとしてびん清方言のデータを収録することになっている。ページのアレンジ上、もう一カ所の新調査方言データが必要であるし、燕話のように福建省のびん東区方言とは大きくかけ離れた方言のデータは不可欠なのであって、なかなか先の見通せない状況ではあるが、燕話の調査計画は放棄しない。アクセスのむずかしい地点ではあるが、協力を得られる見通しもついているので、中国への渡航が可能になり次第、調査に着手したいと思う。 それ以外には、まず2020年度同様、中国語方言学関連図書にできる限り幅広く目を通すkとがある。このような地道な作業を欠かすことはできない。 次に、比較的データが完備している、広東省中山市におけるびん東区方言の方言島、隆都方言関連文献を博捜し、びん東区方言音韻史に関する情報を可能な限り読み取る。この作業に関しては、その結果を今年8月20日から22日まで台湾で開催される「第19屆國際及;第39屆全國聲韻學學術研討會」で報告することになっている(遠隔で参加する予定)。これは研究調書には記載されていないが、コロナ禍の影響を少しでも軽減することが可能になると思う。 研究調書では今年度(2021年度)から『びん東区方言音韻史研究』の執筆を始めることになっている。データが完全には準備できてはいない状況ではあるが、この計画通り、著書の執筆は進める。 なおここに記したことについても、コロナ禍の状況の変化により、随時変更の可能性がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により中国渡航が不可能となり、2020年度予定していた二度にわたるフィールドワークが実施できなくなったため、次年度使用額が生じた。 中国への渡航が可能となり次第、2020年度に予定していた中国でのフィールドワークと今年度予定しているフィールドワークとともに実施することにより使用する。
|