令和5年度に4点の研究を行った。1点目は、授受動詞の補助動詞に関する研究である。共通語では「~してやる/~してくれる」の対立が、北琉球語の喜界島方言では「~シテトラス/~シテクレル」で現れる。だが、これは人称制約ではなく、本動詞トラスの意味の影響で分化したのだろうと考えた。2点目は、南琉球語敬語体系の総括である。与那国町での調査を追加し、宮古島での遠隔調査も試みた。3点目は、指示詞に関して、西表の船浮方言を調査することで、新たな仮説を立てることができた。また、4点目として、アクセントに関する共同研究を始めた。 補助事業期間を通して、次の5点を明らかにできた。まず、1点目は、南琉球語と北琉球語に共通して謙譲語αがあることが分かった点である。謙譲語αは、主語と補語を同等に高める。また、敬意の方向を優先するため、もう一人の人物よりも補語の一人称(複数)が上位者であれば、自敬を容認できる。2点目は、授受動詞の体系を詳細に記述した点である。従来の「やる/くれる」対立だけでなく、トラスが重要であることを、古典語と北琉球語で確認した。また、補助動詞では異なる体系が生じることも指摘した。今後、論文化する予定である。3点目は、指示詞に関して、北琉球語と南琉球語で遠称の位置づけが異なるのではないかという見通しがついた。今後、口頭発表をする。4点目は、親族名称に関して、青年期以降で兄弟間の呼び方が変わることを明らかにした。5点目は、敬語の使役形に関し、黒島方言や宮良方言で「太郎が先生をいらっしゃらせた」と、下位者が使役主体となる文があることを確かめた。そのとき、意味は「促し」の用法になる。共通語では非文法な文だが、古典語には確認できる敬語の使役文である。 また、研究期間中、談話の収集も断続的に行った。すでに書き起こしに着手している状況である。
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