研究課題/領域番号 |
20K00557
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
山森 良枝 (松井良枝) 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (70252814)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 前提 / 文脈情報 / 擬似条件文 / (誤謬)推論 / メタ意味論 |
研究実績の概要 |
初年度にあたる今年度は、変項を含む形式への値割り当てに必要な先行文脈からの情報の補充がないにも拘らず問題なく使用される言語現象のうち、条件文p→qの形式を持ちながら、pとqの間に論理的依存関係がないという意味で適切な先行文脈を欠く、擬似条件文(①空腹なら、ビスケットがある)と誤謬推論(排ガス規制を導入すれば、日本の自動車産業は衰退する)に焦点をあて、両者を比較する作業を通して、その背後にある推論プロセスの解明に当たった。特に、誤謬推論は正解が分からない場合に生じるヒューリステイクスの1つ(Volokh,2003)と言われるように、その推論プロセスはブラックボックスと化し、具体的なメカニズムは未だ明らかではない。他方で、誤謬推論同様、pとqの間に論理的因果関係が成立しない擬似条件文は、その論理的な特徴や意味構造に関する議論の蓄積がある。本研究では、擬似条件文の従来の研究成果に検討を加え、新たに、疑似条件文では前提Pの導入に続いてp+qのように前提が投射され、容認の含意(例えば①では「食べてよい」)rが導出された時点で投射が完結する意味構造をもつとし、擬似条件文の意味を「p&q→r」と記述する一方、(誤った推論とされる)誤謬推論では、結論qを導出するためにp以外に隠れた前提xがpとqの間に介在しているとし、その意味を「p&x→q」と記述する分析を提出した。また、擬似条件文はqが常に真、誤謬推論はqが常に偽となるという論理特性を持つことが知られている。本研究では、それらの値を「A&B→C」の真理値表に当てはめると、擬似条件文はpの真偽に関らず常に真が成立すること、また、誤謬推論では前提xが常に偽となることが逆計算できることを示して、qやxなどの隠れた前提の補充が単なる情報の補てんにとどらず、新たな文脈を示唆し創設する機能を有することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、適切な文脈を欠きながら問題なく使用される文のうち、擬似条件文と誤謬推論(の1つであるslippery slope)に関して、両者の異同を比較する作業を通してこれらの文の背後にある解釈の仕組みの解明を試みた。ただ、コロナ禍のもと、日常の研究会や学会の開催が延期あるいは中止され、開催されてもオンライン開催となった。そのため、分析方法や結果についての十分な議論や関連諸分野の最新情報を摂取ができなかった点は否めない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に取り組んだslippery slopeは「排ガス規制を導入すれば、日本の自動車産業は衰退する」のように、最も選考されるべき前件命題が、それと対立関係にある選好されない後件命題の生起確率を高める方法に作用するという推論の形態を持つ。しかしながら、誤謬推論にはそれ以外にも多様な推論の形態がある。そのため、それらに対しても、slipper slopeと同じ分析が適用できるかどうかは不分明であり、引き続き調べる必要がある。また、それと並行して、これら個々の推論形態のメカニズムを明示的、かつ、包括的に記述可能な理論的枠組みを確立する必要がある。次年度以降の研究においては、これらの課題に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ禍の影響で、学会が中止、延期、あるいは、オンライン開催となった。そのため、予定していた全ての海外および国内旅費の執行ができず、次年度への繰り越しとなったため。今年度もコロナの影響で出張が制限されると思われる。その点を考慮して、文献資料の購入を増やすなどして対応して行きたい。
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