研究課題/領域番号 |
20K00569
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
奥田 智樹 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (20293722)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 意味論 / 名詞句表現 / 「義務および可能性」 / 「結果」 / 「方向性」 / 「必然性」 |
研究実績の概要 |
本研究はフランス語で多用される①「N+a V」型名詞句と、その類義表現となり得る②「N+V-able型形容詞」型名詞句、および③「N+受動的用法の代名動詞を含む関係詞節」型名詞句を取り上げて、それぞれの意味論的特質を明らかにすることを目的としている。(以下、名詞はN、動詞はVと略記する。) 令和2年度は、まず①に焦点を絞り、先行研究に依拠して大きな三つの意味分類「義務および可能性」、「結果」、「方向性」を設定した後、それぞれの典型的な例を集めて必要に応じてさらなる類型化を行い、それらを、否定形をめぐる問題や情報の焦点といったいくつかの観点から分析した。その結果、「義務および可能性」については「義務」と「可能性」の二つは対等ではなく、基本的な意味は「義務」を含む広義の「必然性」であり、「可能性」は特定の文脈的条件が満たされた場合の生じる派生的な意味効果であることが分かった。また、「結果」については、「N+a V」を単独の名詞句としてよりもむしろ、関連する構文の一部として捉えるべきものであることが確認された。さらに、「方向性」については、その内実が一様ではないため、3つの異質な表現グループへの類型化を行ったが、その中には、「義務および必然性」や「結果」とは性質を異にし、「N+a V」のa Vの部分が、Nで表される名詞の下位分類を表すレッテル的な役割を果たしているものも含まれていた。以上のような観察を踏まえて、最終的に、「N+a V」という名詞句の構造におけるNとa Vとの結びつきの緊密さ、および特定の状況との結びつきという二つの点に注目して、①の三つの意味分類について意味的、統語的な性質の対比を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が研究対象としている上記①~③のうち、現在は実質的にはまだ①の研究にとどまっているが、①の範囲内では、当初は令和3年度に行う予定であった意味論的記述にまで踏み込むことが出来た。ただ、①の意味分析において鍵となる「必然性」という概念の実体を今後明確にしなければならない。また、②と③については、先行研究を入手出来たものから順に精読している段階であり、まだ本格的な検討には入っていない。Frantextを用いた用例の収集は、まだ着手したばかりの段階だが、令和2年度に構築した研究の枠組みを踏まえて、令和3年度において本格的に行う予定である。以上のことから総合的に判断して、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、本研究が研究対象としている上記①~③のうち、②と③の研究を本格的に実施しなければならない。①~③はいずれも義務や可能性の意味を表す場合があり、話し手の主観に深く関わる意味内容を持つ点では共通している。だが、義務と可能性の意味の現れ方については、①と③が文脈に依存するのに対して、②は文脈に依存せず語彙によってどちらかに決まっているという違いがある。従って、①との対照という観点から言えば、③より②の方が示唆に富んでいる可能性があり、②と③の扱いにおいてはその点を考慮する必要がある。一方、Frantextを用いた用例収集については、令和2年度に着手してはいるが、大規模データの構築には至っていない。研究代表者はFrantextの利用法にまだ習熟していない部分があるため、令和3年度に意識的に集中して取り組まなければならない。また、研究の進展の過程において、フランス語母語話者の助力を得た上でのインフォーマント調査も随時行っていく予定である。さらに、令和4年度に実施予定の、英語や日本語の対応表現との対照についても、令和3年度から徐々に準備していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、Frantextを用いた用例収集が本研究に不可欠なので、まずFrantextの年間契約を継続しなければならない。また、研究代表者が本研究に主に使用している大学のパソコンとプリンタは、10年以上前に購入したかなり古いものなので、新しいものを購入する必要がある。本研究の関連書籍についても令和2年度には一部しか入手できなかったので、今後拡充したいと考えている。また、フランスの研究会に投稿する予定のフランス語論文については、フランス語母語話者に校閲を依頼することが義務になっているので、その謝金も支払わなければならない。さらに、コロナ禍にあって先行きは全く不透明だが、成果発表の機会を得るため、可能であればフランスで研究発表を行いたいと考えているので、そのための海外旅費も必要である。
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