令和4年度は、①について令和3年度までの研究を踏まえ、6月に論文を1本刊行した。また、②の母体となる拙稿「フランス語と日本語における必然性の意味を伴う名詞修飾表現」の全面的な見直しを行い、併せて日仏対訳コーパスの構築を手掛けた。さらにコロナ明けによって科研費最終年度にして当初予定していたフランス出張がようやく実現し、念願の文献調査などを行うことが出来た。また、フランス滞在中には、ストラスブール大学名誉教授のクライベール教授に研究内容を発表し、貴重な多数のコメントをいただく機会を得た。しかし、令和4年度は、対訳コーパスの構築に予想外に時間を要したほか、同時並行で進めなければならなかった文献翻訳の業務にも時間を取られ、②と③については当初予定していたように日仏対照研究を視野に入れた上で分析を深めることが出来なかった。研究期間を延長することも考えたが、今回はこの最終年度で一区切りとし、より内容を発展、進化させた研究計画を構築した上で次回に臨みたいと思う。 今回の研究期間全体を通じて実施した研究の成果は次の通りである。フランス語の「N a V型名詞句」について用法を「義務および可能」、「結果」、「方向性」の3つに大きく分類した上で、それぞれについて詳細な意味分析を行った。「義務および可能」については、義務と可能の意味の結びつきを明確にした上で、それぞれの意味の現れ方について論じた。また、a Vの部分が否定形a ne pas Vとなる場合の性質についてインフォーマントチェックに基づき明らかにした。「結果」については、当該のa Vの用法が名詞句以外にも見られることに注目し、名詞句の成り立ちについて仮説を提示しその検証を行った。「方向性」については、a Vの部分をNの分類の指標とする見解を示しつつ、「義務および可能」の用法との意味上の隣接性を指摘した。
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