研究課題/領域番号 |
20K00572
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井口 容子 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 教授 (00211714)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中動態 / 再帰 / 譲渡不可能所有 / 与格 / フランス語 / ロシア語 |
研究実績の概要 |
本年度はフランス語代名動詞のうち、譲渡不可能所有者与格に関連する構文に特に注目し、代名動詞(中動態)の体系の中でこのタイプの構文が占めるステイタスについて、ロシア語の再帰構文と比較・対照しながら考察した。私は2019年度青山学院大学人文科学研究所プロジェクト「動詞とその項 ― 英語とフランス語の格構造を中心に」(代表・尾形こづえ教授), 2020年度同プロジェクト(代表・高橋将一教授)にも参加しているのだが、このプロジェクトにおいてフランス語の譲渡不可能所有者与格について研究を行う中で、ロシア語の関連構文を分析した文献(水野・藤村(2004)、Saric(2002)等)を読み込んだ。それを通じて、フランス語の代名動詞のうち、再帰代名詞が譲渡不可能所有者与格に相当する構文が、中動態のシステム全体の中でどういう位置を占めるのか、という問題に強く興味を持った次第である。 再帰形態素が与格とみなされる構文については、Kemmer(1993)も "indirect middle" および "indirect reflexive" として言及してはいるものの、対格の場合と比べて扱いは小さい。「再帰-自発-受動」という機能拡張に注目する、近年の中動態研究(柴谷(1997)等)においても、分析の中心となるのは再帰形態素が対格とみなされるものである。しかしながら中動態の体系を考える上で、与格のタイプは欠かすことのできないものである。本年度この構文に注目したことは、この観点からも意義のあることと思われる。 この研究の成果は、井口(2020)(「フランス語の譲渡不可能所有者与格の代名動詞とロシア語のся動詞」,『ステラ』第39号, 129-143)として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は再帰代名詞が与格と解釈されるタイプの代名動詞の分析が進んだことで、フランス語の中動態の体系の全体像を把握する上で、重要な進展があった。今後はモダリティおよび総称性に関する考察をより深めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
モダリティおよび総称性に関する文献を精読する。特にKratzer, Mari等の、形式意味論の立場から書かれた文献に注目する。同時にFrantext等の電子コーパスの活用と、小説、新聞等からの手作業による例文の収集を行い、分析を行う。これらを通じて、フランス語の受動的代名動詞における総称性、モダリティに関する考察を深めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、東京への出張を行うことができず、旅費の使用ができなかった。さらに東京出張時に行う予定にしていた、書店での書籍の購入もできなかったため、次年度使用額が生じた。次年度はこれにより生じた文献整備の遅れをとりもどすべく、資料収集を行っていきたい。
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