研究課題/領域番号 |
20K00572
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井口 容子 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 教授 (00211714)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 代名動詞 / 自発 / 使役交替 / 反使役 / 様態・結果相補性仮説 / 程度到達動詞 / フランス語 |
研究実績の概要 |
2023年度はフランス語の代名動詞の諸用法のネットワークにおいて、「受動」と密接に関連するものである「自発」の用法に特に注目して研究を行った。この用法は、使役交替に与る動詞の自動詞形態(anticausative variant)と考えることができるものであるが(ex. briser - se briser ‘壊す - 壊れる’)、フランス語の使役交替においては、再帰代名詞を伴うこの形態ではなく、非再帰形態、すなわち対応する他動詞と同形態で自動詞概念を表すものもある(ex. fondre ‘とかす - とける’)。さらには自動詞形態として再帰、非再帰の両形態を有するものもあり、その中には共起する要素によりいずれかの形態のみが許容される場合もある。この問題に関しては、従来から様々な研究者によって論じられており(Rothemberg(1974), Zribi-Hertz(1987), Doron and Labelle(2011), Martin and Schafer(2014)等)、私も井口(1995, 2015)等の論文を発表してきた。 だが従来この現象を表すものとして示されてきた例文を精査すると、動詞によって微妙なふるまいの違いがみられる。2023年度はこの点に注目し、「様態・結果相補性仮説」(Rappaport Hovav and Levin(2010))および「程度到達動詞(degree achievement verbs)」(Kennedy and Levin(2008)等)の観点を取り入れて、この問題を新たな角度から考察し、フランス語において使役交替を示す動詞には、いくつかの下位クラスが混在していることを示した。 この研究の成果は「フランス語の再帰・非再帰形自動詞再考」というタイトルの論文として、『Stella』第42号に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は「自発」の用法の分析を順調に進めることができた。「概要」欄にも記したように、代名動詞の諸用法の中でも、「自発」と「受動」は密接な関係を持つものである。前年度まで「受動」を中心に分析を行う中で、さらに研究を進めるためには「自発」についても改めて考える必要があることを感じてきていた。その意味において、2023年度に「自発」の考察を深めることができたのは、研究全体の進展において大きな意義のあることであったと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで行ってきた考察を基に、2024年度は「受動」と「自発」の両方を視野に入れながら、分析を行っていきたい。特に総称性およびモダリティの面に注目し、形式意味論的な記述を試みる。 さらに「叙述の類型」(益岡(編)2008, 影山(編)2012等)における、「事象叙述文」に対峙するものとしての「属性叙述文」と、「総称文」の関係についても考察していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「概要」欄に記したように、2023年度は「受動」用法と密接な関係にある「自発」用法の考察にかなりのエネルギーを注いだため、「受動」用法の意味論的分析を進める時間が限られてしまった。これに加えて2020年度-2021年度におけるコロナ禍による研究の遅れ、およびその後も他の業務の多忙により研究時間の確保が困難な状況があったため、次年度使用額が生じることとなった。 2024年度は「自発」と「受動」の両面を視野に入れて代名動詞の意味論的分析を行い、研究をまとめていく。そのための書籍購入、資料収集や研究成果発表のための旅費として、助成金を使用する予定である。
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