研究課題/領域番号 |
20K00575
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研究機関 | 宮城学院女子大学 |
研究代表者 |
木口 寛久 宮城学院女子大学, 一般教育部, 准教授 (40367454)
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研究分担者 |
高橋 将一 青山学院大学, 文学部, 教授 (70547835)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 統語論 / 第一言語獲得 |
研究実績の概要 |
生成文法では、文法構造が下から上に積みあがって(ボトムアップに)形成されると仮定されているが、このようなボトムアップ・アプローチに与しない操作が数々提案されている。本研究の目的は「文法構造の形成には厳密なボトムアップの積み上げ以外の操作、すなわち派生における非循環性も容認されなければならない」ことを理論・実証研究の両面から主張することである。 本年度は研究代表者や海外研究協力者が以前より取り組んできたcleft構文(いわゆる強調構文)における再構築現象についての実証研究について、そこでの知見が理論研究の発展にどのように寄与できるのか考察した。 研究代表者らによる先の実証研究では、束縛原理Cと複合名詞句を用いた束縛代名詞に関する再構築構文が、特段の獲得困難性や獲得の遅延を見せずに幼児によって大人同様に解釈されたが、これは言語の生得性を前提とする生成統語理論において、Kayne(1994)やReeve (2013)らの“直接繰り上げ”の分析を支持するだけでなく、第一言語獲得理論の観点からもcleft構文における空演算子の関与に疑問を呈する実験結果と言える。空演算子は根源的に音形を持たない要素のため、当然、第一言語資料として幼児には入手困難なはずであり、そのような要素が関与した操作は当然、幼児の文法に存在するとは考えにくい。よって獲得可能性の観点からも、言語の生得性を前提とする生成統語理論において、空演算子は破棄していく方向が望ましいと思われる。これまで空演算子が関与していると分析されている種々の構文に対する代案としてHornstein (2000)などでは、要素に横方向移動を許可する方策が提案されており、もし、この方策が正しいとすれば、文字通り横方向移動は単一のフレーズマーカーをボトムアップに形成する作業ではなく、結論として派生における非循環性を容認することとなるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年初頭からの新型コロナウィルス感染症拡大を期に、海外研究協力者との共同研究打ち合わせも滞り、当初より継続していた三項動詞の2つの目的語の数量詞繰り上げにおける(非)循環性についての理論的・実証的研究に進捗が見られなかった。ただし、派生の非循環性を肯定する理論的研究にあたっては、横方向移動の利用可能性について再考するという洞察を得ることはできたので、この点は進捗が見られたと言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
今後は遅延併合(Late Merge)についての理論的研究を推し進めながら、横方向移動(sideward movement)や押し込み(Tuck in)といった、派生の非循環性を要求する移動の正当性を主張する方策である。また、三項動詞の2つの目的語の数量詞繰り上げにおける(非)循環性についての理論的・実証的研究においては、海外研究協力者との共同研究打ち合わせも再開させ、次年度中には分析を一定の形にまとめ、論文執筆に取り掛かりたい。また残念ながら新型コロナウィルス感染症の蔓延が完全に収束する見込みが薄い現状ではあるが、Whole Sale Late Mergerに関する経験的証拠の探求と統語モデルの進展にも努めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大により、海外へ発表および海外研究協力者との打ち合わせに出向くことができず予定通りの執行が叶わなかった。 次年度において、新しい日常にのっとった最近の研究スタイルの動向に即し、動画作成やリモートによる研究推進環境の整備に使用する計画である。
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