本研究は,言語の「自然さ」,「~語らしさ」ということはどういうことかについて理論化し,説明を試みることを目的とし,主体・主観化現象に関わる認知様式のあり方の類型化を「音声言語」という視点を取り入れ,眼前の状態の捉え方に影響する要因についてより精緻に検証することを試みた。すなわち,客観世界に対する事態認識の言語化とその傾向が言語によって異なる現象に着目し,構文間の連関と対立の関係に反映される話者の事態認知上のカテゴリー化の動機づけについて考察した。具体的には,人為的行為の結果状態を表す現象を対象とし,諸言語がどのような構文を用いるのが自然かを,ビデオ発話実験という手法により母語話者から収集した音声資料をもとに検証した。 期間全体を通じて「音声言語」という視点においてビデオ発話実験による文法研究を推進した。結果の状態を描写する場面においてどのような表現を用いるか,2021年度に実施した日本語母語話者インフォーマントへの実験から収集したデータを分析したところ,結果に至る過程を知覚したかどうかで表現選択の傾向が異なることが分かった。他の言語話者への実験は開始年度の2020年度から始める予定であったが,コロナ禍の影響により現地出張がままならず,ようやく2022年度に国内で韓国語母語話者への実験を実施することができた。2023年度はエストニアを訪問し,同様の実験によりエストニア語母語話者のデータを収集した。その成果として,日本語以外の言語話者への実験においても,音声言語において結果状態を描写する際,結果に至る過程を認識したかどうかが結果表現選択に影響することが示された。 得られた研究成果は2024年度の採択課題(24K03901) に引き継がれ,音声言語における構文のあり方について意味と機能と構造の面から有機的・相関的に特徴づけてさらに深く検証し,明らかにする予定である。
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