研究課題/領域番号 |
20K00598
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
伊藤 智ゆき 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (20361735)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 韓国朝鮮語 / 長母音 / 中期朝鮮語 / 音素配列論 / 歴史言語学 |
研究実績の概要 |
本年度は、標準韓国語の長母音の分布に関連する、様々な資料の収集と、その記述的研究を中心に進めた。まず、昨年度に引き続き、標準韓国語名詞データの整理・構築作業を進めた。標準韓国語は中期朝鮮語アクセントの上声に由来することから、特に中期朝鮮語データの拡充している漢字語について、『標準国語大辞典』(国立国語研究院、1999)を利用しつつ、母音長の情報の入力を進めた。それにより、標準韓国語名詞の長母音は、原則として中期朝鮮語上声と対応する傾向があるものの、相当程度の例外があること、またその例外には分節音乃至音節形の影響が大きいことを見出した。例外となる語については、『韓英辞典 A Korean-English Dictionary』(James S. Gale, B.A.,1897)もしくは『朝鮮語辞典』(朝鮮総督府、1920)における記載の確認も行った。 更に、標準韓国語における長母音消失過程を検証するための補助資料として、中期朝鮮語上声が既に他の音韻論的カテゴリーに合流している延辺朝鮮語(中国吉林省)について、漢字語名詞アクセント調査を行った。また、延辺朝鮮語と言語学的特徴が類似する、咸鏡道方言(北朝鮮)の1970年代録音資料に基づき、特に各母音のフォルマント値、母音長、F0値に関する音響音声学的分析を進めた。同録音資料には、母音融合による長母音が観察され、その音声学的実現の様相についても確認中である。 上記に加え、標準韓国語コーパスに見られる音素配列論的パターンについてシミュレーションを行った様々な先行研究を参照・比較した結果も踏まえ、標準韓国語における長母音の分布を分析するための基本データのフォーマットと方法論について、更に検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、本研究の遂行に必要である、標準韓国語名詞データ構築は順調に進んでいる。また、今年度は更に、標準韓国語長母音の消失過程を推定する上で重要な参考資料となり得る、延辺朝鮮語・咸鏡道方言の資料収集・調査分析も行い、より実証的に記述研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、標準韓国語名詞データの更なる拡充を目指すとともに、既に長母音の対立が失われている(少なくとも中期朝鮮語上声が他の音韻論的カテゴリーに原則として合流していると見られる)延辺朝鮮語・咸鏡道方言の記述研究も同時に進め、韓国朝鮮語における長母音系列の位置づけについて、より詳細に分析を行う予定である。また、標準韓国語における長母音の分布に関し、音素だけでなく、音節を単位とした分析・モデル化が可能であるかについて、検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、学会出席、調査・研究打ち合わせ等のための旅費を使用する機会がなかったことなどにより、次年度使用額が生じた。今後は、延辺朝鮮語調査謝金、咸鏡道方言等録音資料の書き起こし謝金、データ分析に必要なハードウェア、ソフトウェア購入費等に助成金を用いる予定である。
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