研究課題/領域番号 |
20K00612
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
林 徹 放送大学, 東京文京学習センター, 特任教授 (20173015)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フォーリナートーク / 移民 / トルコ語 / 言語接触 / 言語の簡略化 |
研究実績の概要 |
【現地の状況と調査中止の経緯】令和2年度は、当初、8月に調査準備を行い、12月から1月にかけて予備調査を開始する予定であった。初年度からできるだけ多くのデータを収集することを目的に、本研究課題が採択される以前の、令和2年2月にベルリンで、現地の研究協力者の支援を得て、調査対象の学校関係者と面会するなど、現地での調整を先行して行った。ドイツにおける新型コロナウイルス感染症の広がりは、当初限定的で、現地の研究協力者たちと連絡を取り合いつつ、タイミングを見計らっていたが、その後ドイツでも感染症が蔓延し、現地調査を諦めざるを得ない状況となった。また、ベルリン在住で長年交流がある研究者にアドバイザーとして協力してもらう予定であったが、当人が新型ウイルス感染症に罹患するという予想外の事態にも直面することとなった。
【現地調査に代わる調査方法の試み】以上のような経緯により、現地調査がまったく実施できなかったため、それに代わる調査方法を試みることとした。まず、調査対象の学校関係者(主に講師)とのリモートでのインタビューを計画したが、学校が閉鎖となったことにより調整がつかず、実現させることができなかった。そこで、インタビューに較べて回答者への負荷が少ないと予想される、インターネット経由でのアンケートを実施することとし、準備を開始した。
【アンケートを使った予備調査】母語話者のフォーリナートークに観察される特徴が非母語話者である対話相手により異なるという先行研究の知見に基づき、非母語話者が移民背景を持つか否かによって、母語話者のフォーリナートークがどのような影響を受けるかを明らかにするのが本研究課題の目的である。そこで、与えられた文章の内容を、非母語話者である想像上の対話相手に合わせて、どのように言い換えるかを回答してもらうアンケートを試作し、ベルリン在住の研究協力者と検討を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗が遅れた最大の理由は、ドイツにおける新型ウイルス感染症の拡大である。研究実績の概要にも記したように、海外渡航の自粛が続いたことから、当初予定していた現地調査がまったくできなかった。さらに、調査対象としていた学校において授業の休止が続き、リモートのインタビューを実現させることができないという予期せぬ事態にも直面した。特に、現地調査を予定していた2校のうち社団法人立の語学学校は、生徒を集めた授業ができないことから経営が悪化し、講師のほとんど(本研究課題の現地研究協力者もそのひとり)が休業の状態に置かれている。 研究の進捗が遅れたもう一つの理由として、感染状態の好転を長く待ち過ぎた点が挙げられる。令和2年度中の現地調査の実施に早めに見切りをつけ、より早い時点で別な調査方法を試みていれば、もう少し成果を上げられていたのではないかと思う。 しかし実際には、秋以降の現地調査の実現に期待し続け、できるだけ経費を温存する方針をとったため、別の調査方法を本格的に試みる機会を逸することとなった。このような期待を抱いてしまったのは、ドイツ全土で3月に実施されたロックダウンが段階的に解除されるなどの、一見好転していると見える状況によるものだったが、令和2年度中の現地調査を諦めたのが、1日に2万人を超える新規陽性者数が出始める11月になってからだったのは、今から振り返ると、やや遅かったと言える。 一方、遅ればせながらアンケートによるデータ収集を試みたことで、今後の現地調査にも活かせる知見を得ることができた。これにより、当初3年間実施する予定だった現地調査を2年間に短縮できる可能性が生じた。今後の調査をより効率的に進めることが期待できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
【令和3年度】令和2年度に計画・準備したアンケートによるデータ収集を実施したいと考えている。研究協力者と検討した結果、試作したアンケート(質問票)の課題として、非母語話者の言語能力としてどの程度のレベルを想定しているかが明示されていないため回答しづらいこと、対話相手の属性や共有知識などの言語外的情報がまったく与えられていないため言い換えの選択肢が限られること(特に、例示や具体化によるパラフレーズが制限されること)などの点が明らかとなった。これを受けて、会話参与者や会話場面に関する説明を補うこと、さらに、できるだけ背景や場面の説明を必要としないような状況を選ぶことにより、問題を解消すべく、新たな質問を構想中である。また、アンケートの質問項目や質問方法の改善と並行して、実際にアンケートを実施する際に用いるソフトウエアについても検討する。試作では、グーグルが無償で提供するグーグル・フォームというプラットフォームを使ったが、より自由な質問・回答を可能とするため、同じくグーグルが提供するGAS (Google Apps Script) というスクリプト言語を使って、専用のアンケートを作成する。少数の回答者に対して試験的に実施した上で、令和3年度に本調査を行う予定である。また、もし状況が許せば、年度の後半にドイツに渡航し、調査許可申請を含めて、現地での調整を行う予定である。
【令和4年度以降】3年間実施する予定だった現地調査を2年間に短縮して、令和4年度・5年度に実施するように変更する。そのために、当初3年間を想定していた研究期間を1年延長して4年間とし、研究期間を令和2年度から令和5年度までとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】当初の計画は、ベルリン等における現地調査を通じて一次データを収集することを前提にしたものであった。類似の調査研究が行われておらず、また、参照できるデータもなかったため、令和2年度は、最後まで現地調査が実施できることに期待して、状況の好転を待ち続けた。しかし、好転するどころか、ドイツ全土で長期間のロックダウンが行われ、令和2年度の現地調査が不可能であることが明らかとなったため、令和2年度の研究費を次年度以降に温存することとした。これにより、令和3年度に令和2年度分の研究費を繰り越すこととなり、次年度の使用額が生じた。
【使用計画】令和3年度は、リモートでのアンケート調査などを試みつつ、現地調査の準備を行う。ドイツにおける感染状況が好転し渡航が可能となれば予備調査を実施する。令和4年度以降に本格的な現地調査を開始し、研究期間を1年延長した上で、令和5年度まで研究を継続することを計画している。
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