【最終年度】ベルリンの統合コース学校にて、同校講師ギュロル・アクタシュ氏がインタビューアーとなり、同校で統合コースを修了した5名(スペイン、トルコ、ポーランド、カザフスタン、シリアの出身者各1名)と実施したインタビュー(2022年12月実施)でのドイツ語での対話を、1年に亘りほぼ毎週アクタシュ氏とズームミーティングを行い忠実に文字化した後、比較するための標準的なドイツ語を加え、対応コーパスを作成した。また、このコーパスを使い、統合コース受講者と担当講師のドイツ語におけるフォーリナー・トークについて分析を行った。
【研究期間全体を通じて実施した研究の成果】本研究課題の目的は、ドイツの移民コミュニティ内で移民同士が使うドイツ語について、簡略化された言語レジスタ(フォーリナー・トーク)と移民コミュニティでの言語的多様性の関係を明らかにすることであった。2020年から2022年にかけて、新型コロナウイルス感染症がヨーロッパ各地に広がる中、研究計画は大きな影響を受けたが、上記のインタビューを実施し、加えて、17名の受講生(シリア出身4名、レバノン出身2名、トルコ出身6名、ブルガリア、イタリア、カザフスタン、ポーランド、エチオピア出身各1名)が書いたテクストを収集した。特に語順に注目すると以下の点が明らかとなった。 ドイツ語の主節における語順ルールを、統語論的なもの(主動詞や助動詞の前置)と語用論的なもの(トピックを主動詞や助動詞の前に移動する)に分けて捉えた場合、統語論的ルールの逸脱は頻繁に見られ、かつ逸脱の種類も多様であった。一方、語用論的語順ルールに関しては、ドイツ語母語話者と移民の間にほぼ同じ傾向が認められた。これは、講師と生徒の間に成立したフォーリナー・トークの影響の影響と考えられ、このような傾向が移民同士の会話にどのように反映し発展するかを捉えるのが、今後の課題である。
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