研究課題/領域番号 |
20K00616
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
水口 学 國學院大學, 文学部, 教授 (90555624)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 併合 / 転送 / 主語 / A移動 / 抜き出し |
研究実績の概要 |
本研究課題は、単純併合仮説を言語能力の中心的演算として位置づける統語論の枠組みの中で、統語構造と言語の諸特性の関係を最適な派生計算の観点から解明することを目的としている。特に、節構造とその中心となる主語を考察の中核に位置づけ、それらを手がかりとして、言語における最適な派生計算、統語計算の姿を明らかにしようとするものである。 本年度の研究では、移動した要素からの抜き出しと派生上の曖昧性を解明することを中心に研究を進めた。この研究を進めるにあたり、まず、現在の統語構造を作り出す演算である併合について考察した。言語の回帰性を捉える併合は、Minimal Yield(MY)という条件を満たす性質を持つと考えられているが、現在の理論上では、要素が移動した際にMYが冗長的に満たされることになる。今年度の研究では、転送がこの冗長性の問題を解決することを明らかにし、この提案からA移動(主語句の移動)に関して新たな見方が導かれることを示した。更にこの分析によって、主語句内からの抜き出しが説明できることを明らかにした。 本研究成果は、併合がMYを満たすのであれば、従来の分析とは異なり、A移動には移動が含まれないことを示しているという点で重要である。派生上で曖昧さが生じないことは、併合がMYを満たすことの帰結として導かれるが、転送によってMYを保証することで、A移動や主語からの抜き出しについて、新たな知見が得られたと言える。 また、この研究成果は、派生計算における外的併合と内的併合の選択の問題や意味の二元性とも関わっており、本研究では、これらに対して別の見方を提示した。今後、理論的、経験的観点から本研究成果を検証し、その妥当性を別の角度から裏付けることが課題として残った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に関連する研究も付帯して行った関係で、今年度の後半部分で進める予定であった別のテーマが扱われていない状態ではあるが、前半部分で進めることにしていた研究はほぼ予定通りに進めることができた。昨年度、一昨年度に引き続き、コロナ禍の影響もあり、研究成果の発表や研究に関わるフィードバックに遅れが生じている状況であることは確かであるが、研究課題全体の進捗に大きな影響を及ぼすようなものではない。こうしたことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に立案した研究計画に従って、今後も研究を進めていく予定である。しかしながら、これまでと同様に、実際に研究を進めていく中で解決しなければならない問題が見つかったり、また今後の研究の中で出てくることが見込まれる。加えて、単年度内の研究では十分な成果に至っておらず、もう少し時間をかけて検討しなければならない箇所もある。こうした新たな問題や十分な成果を得られていない研究は、本研究課題全体を推進する上で重要なものになるので、前年度までと同様に、当初の研究計画に沿って研究を進めながらも状況に柔軟に対応し、研究課題全体を常に見渡しながら、今後の研究を進めていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、学会発表や研究交流のための海外出張を行うことができず、次年度使用額が生じた。残額は、次年度分と合わせ、旅費、機器の更新、消耗品の購入等に充てる予定である。
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