研究課題/領域番号 |
20K00617
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石部 尚登 日本大学, 理工学部, 准教授 (70579127)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 言語要件 / 言語政策 / 移民政策 / ベルギー / 市民化政策 / 言語統合 |
研究実績の概要 |
2020年度は、当初の計画にしたがい、まずはヨーロッパ諸国の移民政策における言語要件に関する共通の政策トレンドを確認するために、各国の移民政策や国家間の政策比較(調査)についての先行研究や報告書を収集し、文献調査をおこなった。その結果、予備調査で指摘していた「言語要件の前倒し適用」、「入国前段階の言語要件」、「言語能力の引き上げ」、「言語テストの導入」、「対象者の拡大」、「罰則制度の導入」などの傾向が、これまで調査の対象としてこなかった国家(たとえばオーストリアなど)にあてはまることが確認できた。 なお、今回の調査で2020年にあらたに言語要件が導入された事例を発見することはできなかった。新型コロナウィルスの蔓延に起因する特殊な社会情勢(人の移動の極端な制約とその常態化)の影響があることも推測されるが、具体的な因果関係を見いだすことはできていない。いずれにしても、全体としての「言語要件の一般化」の傾向はかわらないことをあらためて確認できた。 また、2020年度の後半には、移民政策の政策主体とその権限領域、とりわけブリュッセルにおける制度の確認、および移民(統合)政策に関連する言語制度の最新状況の確認というベルギーの制度についての調査を計画していたが、現地調査の実施が不可能であったため、文献調査のみをおこなった。 その結果、ブリュッセルで、新規移民に対する統合プログラムの受講の義務化へ向けた議論が、ヨーロッパの共通トレンドにしたがう形で進められていることが確認できた。この議論はフラーンデレン共同体、フランス語共同体委員会、合同共同体委員会の三者間で共同して行われている点で、従来のベルギーの言語政策の枠組みを超える可能性のあるものとも考えられる。ただし、2020年中の義務化実施が合意されていたが、それが実際にどのように進展しているのかについては確認するに至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、年度の前半に予定していたヨーロッパ諸国の移民政策における言語要件に関する共通の政策トレンドを確認するための文献調査が年度の後半にまでずれこんだ。特に年度の前半において、授業のオンライン化への対応等に時間が必要となり、調査のために利用できる時間が不足したことによる。 また、年度の後半に予定したベルギーの制度に関する調査も、ある程度の文献調査は実施できたが、進捗は芳しいものではなかった。ひとつには実際に現地に赴き補足的な調査を行うことができなかったためであり、またひとつには現地の関係者に対する聞き取りがメールやオンラインであっても依頼し難い(できない)社会的情勢があったためである。 さらに、そうした長期にわたり住民の移動を厳格に制限せざるを得なかった状況が、これまでの移民に対する言語政策自体に影響を及ぼす可能性があるという新たな課題も明らかになった。この点については、本研究において配慮しなければならない点であると考えるが、その把握には現在の状況の沈静化ともう少しの時間の経過が必要となる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、まずはヨーロッパ諸国の移民政策における言語要件に関する共通の政策トレンドについてある程度のまとめと成果の報告をおこなう。 また、計画よりも遅れている移民政策の政策主体とその権限領域、および移民(統合)政策に関連する言語制度というベルギーについての調査は、2021年度に計画している「各政策主体により行われている移民(統合)政策とそこでの言語要件の利用について調査」とともに、年度後半に現地調査をおこなう。なお、その際には、現地において実質的な開店休業状態や対応の余裕がないなどの状況が続いているようであれば、移民関連施設への訪問を中止し、より政策的側面を重視した調査への変更も視野に入れておく。以上のことにより、初年度の遅れを取り戻し、当初の計画に戻すことが十分に可能であると考えている。 なお、本年度に新たに浮上してきた課題、昨今の新型コロナウィルスの蔓延に起因する特殊な社会情勢が、ベルギーの移民に対する言語政策自体、あるいは本研究の前提となっている共通の政策トレンドにも影響を及ぼす可能性には常に気を配って研究を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定した現地調査(ベルギー15日間×1回)が新型コロナウィルスの影響により実施できなかったため次年度使用額が生じた。 次年度使用額と合わせて、年度後半にまとめて現地調査を実施することを予定している。
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