本年度は,前年度に引き続き,移民(統合)政策に関する文献および公的情報の収集,分析を継続するとともに,本研究課題の実施期間においてはじめて現地を訪れ,移民関連施設を訪問した。実際に移民と直接かつ最初に接する公的機関において,統合政策,とりわけ言語に関する取り組みには,連邦構成体の違いをこえて共通性が強くみられることが確認できた。この点は,制度面において,各連邦構成体の近年の移民に対する言語政策の近接化や共通化の流れを裏付けるものと考えられる。 上記の成果にくわえ,研究期間全体を通して以下のような成果を得た。 まず,文献調査を通じて,ヨーロッパ各国で,言語要件の積極的利用と強化,厳格化が移民(統合)政策の共通トレンドとなっていることを確認した。具体的には,言語要件の一般化,必要能力の明示化や引き上げ,分野の前倒し,言語テストの導入,対象者の拡大,罰則制度の導入などで,これらすべて,ないしその多くが各国の政策で次第に取り入れられている。ベルギーもこうした共通のトレンドとは無縁ではなく,とりわけフラーンデレン共同体が主導する形で,かつ隣国オランダの影響を受ける形で,ベルギー国内への導入が進められてきたことを明らかにした。 また,ベルギーは,狭義の移民政策(入管・永住・帰化)と移民統合政策で政策主体が異なるという制度的特徴をもつ。こうした制度的な理由から,言語要件を積極的に利活用する統一的な移民(統合)政策の導入は近隣諸国と比較して確かに遅れをみたが,ひとたび一つの連邦構成体が言語要件を利用すると,他の構成体もそれに追随する(せざるを得ない)状況が発生し,国内全域で制度整備が急速に進展した。権限上の制限があるために政策の個別化が進むのではなく,そうした制限があるからこそ各構成体間で政策の近接化や共通化が実現したという一種の逆説的な流れを明らかにすることができた。
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