令和4年度も当科研による5回を含む計9回の現地調査を実施できたことで、文法記述や語彙集その他に必要な情報をきわめて順調に得て整理することができた。 語彙集は令和3年度までの3千語から令和4年度には3千5百語ほどまで増やすことができた。また、これまで調査して文字化していた資料と録音とを文単位で切り取って関連付ける作業を継続して行なったが、これも令和3年度までの約2千文から4千文以上増やして、合計約6千7百余文を作成することができた。さらに、現地話者による単語や文の発話の動画はこれまでの期間に2百以上記録済みである。まだ十分な数とはいえないが、これにより、音声に大きな特徴のある大神方言を視覚的にも捉えることができるようになっている。 令和4年度の発表論文としては、「宮古語大神方言 助辞na:の複数性をめぐって」で琉球諸語に広くみられる助辞ナーについて、大神方言ではきわめて特徴的に文法的意味の使用範囲を広げていることを体系的に記述した。また研究発表としては、「大神方言の強調辞tuの位置づけ」、「存在動詞uL(いる)と組み合わさるいくつかの述語形式について」、「移動と目的の構文 -宮古語大神方言を例に-」、「比較をあらわす助辞のとりたて性について -日本語と宮古語大神方言の検討から-」があり、前年度までの論文・発表をふくめて、目指す文法書全体のパーツが着実に揃いつつある。 以上のように、最終年度を残した3年間のなかで、宮古語大神方言の言語三点セットである辞書、文法書、テキストを作成する上での土台を作成することができたと考える。
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