研究課題/領域番号 |
20K00627
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
佐藤 貴裕 岐阜大学, 教育学部, 教授 (00196247)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 節用集 / 近世 / 古辞書 / 言語生活史 / 教育史 |
研究実績の概要 |
COVID-19感染症の流行拡大により、各所蔵先での臨地調査は見送らざるを得なかったため、本年度においては、これまでの調査結果をHP「近世節用集事典」(https://www1.gifu-u.ac.jp/~satopy/kkn1619.htm)上に展開することに注力することとした。ただし、いまだ調査途次のため、諸本間の関係や、一本における異本の存在などについては調べつくされた段階になく、提供できる情報は暫定的なものとならざるを得ないが、益するところがあると考えて進めている。中心となるのは、近世節用集諸本の書誌データと解題の公開である。 また、節用集史の叙述に資するところのある文献・資料の翻刻を掲げることも合わせ始めたところである。昨年度の上司小剣『紫合村』にくわえ、徳永直『他人の中』、上田万年「大戦後の東洋に於ける国語問題」を掲出中である。 資料収集では通信販売を中心に一定の成果があった。17世紀の節用集では、『真草二行節用集』(万治2年)・『二行節用集』(延宝頃。既存本とは異りあり)・『頭書増補節用集大全』(元禄6年か。既存本とは異りあり)の3点であった。18世紀諸本では『永代節用大全無尽蔵』(寛延2年。初出か)・『万代節用字林蔵』(希少な安永頃版か)ほか2点を得た。19世紀諸本では『大万宝節用集字海大成』(文化11年の他書合冊版)・『早引節用集』(嘉永3年、希少)・『(世用万倍)早引大節用集』(明治刷りか)・『大全早引節用集』(嘉永7年。料紙異色混成)など、近世出版を考察する手がかりとなりうる諸本を得ることができた。 また、写本では久保田善次郎写『早引節用集』(天保10年)をえた。奥付によれば15歳での全編書写であり、その底本の特定および書写態度の追究、そこからする近世教育・教養の有りようをうかがうことのできる好個の資料と目されるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の主要な研究活動である、各地の図書館・文書館・歴史民俗資料館等での節用集諸本の調査については、COVID-19感染症の流行のため、中止を余儀なくされている。このため、全体の調査計画は停滞をきたしていると言わざるをえない。もちろん、各大学等および国文学研究資料館を中心とする古典籍のデジタル化事業の進捗により、一定程度の調査を行ない得ている面もあるが、デジタル化されたものについては毎年度調査を進めているため、臨地調査の欠を補い得ているわけではなく、限定的なものとなっている。このような進捗状況もあって、研究経費も昨年度に続き、次年度送りする部分があった。したがって、本研究計画自体の進捗状況区分は「やや遅れている」とすべきかと考える。 しかし、資料収集が順調であり、ことに久保田善次郎写『早引節用集』(天保10年)の入手は今後の研究の新たな展開を予想させるものであり、研究計画にはない、まさに望外の収穫というべき存在である。 また、近世節用集の終焉を検討する過程で、節用集に取って替わった存在を、単に国語辞典に求めるのではなく、別の辞典類である可能性を検討する必要が出てきた。これは新たな視点を発見したことと考えられるものである。 以上、可能性の豊富な新資料の入手と、節用集終焉期の記述を綿密におこないうる視点を獲得できたことを重視するとき、総合的な進捗状況を「おおむね、順調に進展している」と判断してよいものと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19感染症流行がいましばらく影響することが考えられ、2022年度前半期においては、臨地調査については、やはり積極的には遂行できない部分がある。年度後半には臨地調査を遂行したく思う。 資料収集については、これまで同様、通信販売等を中心とせざるを得ない。が、和本を低価格で獲得できる機会として、関西方面における大規模な古書即売会も、2021年度後半以降、ほぼ従前のように開催される傾向にあり、期待がもたれる。 久保田善次郎写『早引節用集』の多角的な検討も進めたく思う。まずは底本の同定であり、正確な書写がどこまでできているか、底本との異なりなどの比較・検討などから進めることとする。 また、近世節用集の終焉にかかわった存在の特定についても2022年度以降、調査・検討を行なうことで、より確定的な終焉期の記述的研究を遂行することにつなげたく思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染症の拡大にともない、臨地調査を行なえなかった旅費相当分につき、次年度使用額として計上することとなった。2022年度においては、その後半期には臨地調査を行い得ると考えている。
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