2023年度においても、コロナウィルスの感染拡大が警戒されており、本研究計画の一つの柱である図書館・文書館等における臨地調査は、佐賀大学附属図書館(節用集関連資料として国華集(寛永5年刊)・仄韻略(寛永8年刊別版)・古今雑事集篇(写本)の閲覧・撮影)・ゼンリンミュージアム(『倭節用集悉改嚢』所掲日本図の原図および関連資料閲覧)・国文学研究資料館(マイクロ資料による『大日本永代節用無尽蔵』『倭節用集悉改嚢』の版種調査)などで行うなど控えめに進行することとなった。 一方、もう一つの柱である江戸時代の辞書資料の購入については、感染の可能性の低い屋外で開催される古書市、たとえば大規模なものでは、四天王寺(令和5年4月・10月)・京都市勧業館(令和5年5月)・京都市下鴨神社糺ノ森(8月)・京都市百萬遍知恩寺(11月)において頭書増補節用集大全(貞享2刊)・懐玉節用集(天保1年刊)・(懐宝)早引節用集(推定吉田屋版)など一定の成果を収めることができた。 また、節用集史の締めくくりを模索するために、節用集の後継と目される辞書群として実用辞書(昭和初期に出現した対訳外国語・ペン字書体を併記する簡易国語辞書)に注目し、その草創期の有りようを記述したものを、学会査読誌に掲載することができた。さらに『大日本永代節用無尽蔵』嘉永二(一八四九)年版の付録「本朝年代要覧」の天保15(弘化元)年5月11日に243歳の農夫が永代橋の渡り初めをしたとの記事について、当時流布していた噂話とも異なることを確認、付録記事の内実を示すかたわら、歴史学の感情史・心性史の手法の導入の必要性を示唆した。また、明治期において節用集がいかに認識されていたかを小川菊松・溝口白羊・下田歌子・(四代)竹本長門太夫・(初代)広沢当昇・石井研堂・小泉八雲らの作品に現れた節用集の記述・所感を通じて記述を試みた論考1編を公にできた。
|