研究課題/領域番号 |
20K00650
|
研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
高橋 圭子 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (60865814)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 漢語 / 語用論的標識 / 「勿論」 / 「結果」 / 「無理」 / 「正直」 / 「其実」 / 「可能」 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、歴史社会語用論の主要なテーマの一つである語用論的標識の発達について、漢語に焦点をあてて考察することである。初年度である2020年度は、以下のような研究実績を上げることができた。 (1)「結果」「勿論」について、これまでの研究成果を精緻化し、国際共同論文集に向けての執筆準備を進めた。(2)「無理」「正直」「其実」「大体」について、各種コーパスから用例収集を行い、古代中国語における意味・用法から現代日本語の語用論的標識としての意味・用法に至る過程をたどることができた。「無理」については、複数の口頭発表・ポスター発表・論文発表を行った。「正直」「其実」「大体」については、国際共同論文集に向けての執筆準備を進めた。(3)「可能」を含め、依頼に用いられるさまざまな配慮表現の適切度判定を調査し、「許可求め型」「可能型」「願望型」といった新しい表現に対して、若年層は中高年層に比べ、適切と判定する度合いが高いことを明らかにした。そして、その成果を論文として発表した。 国際共同論文集については、コロナ禍の中、オンライン会議やメールを活用して、以下のような具体的進行ができた。 (4)共同研究者の編集による国際学術誌の特集号に、日本語における「其実」についての論文を寄稿する予定である。(5)共同研究者らの編集による国際共同論文集の企画が受諾された。これは、中国・韓国・日本語の漢語由来の語用論的標識、具体的には、「結果」「勿論・当然」「到底・大体」についての論文集であり、本研究は、日本語における「結果」「勿論」「大体」についての論文を執筆する。そして、(4)・(5)ともに、論文の執筆後、内部査読・外部査読による内容の精緻化を図ることが共同研究者間で合意されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の計画として挙げていた漢語由来の語用論的標識について、「結果」「勿論」については予定通り、これまでの研究成果を精緻化し、国際共同論文集に向けての執筆準備を進めることができた。また、2021年度の計画として挙げていた「正直」「無理」についても、コーパスからの用例収集・分析・考察を進めることができた。「無理」については、2020年度に複数の口頭発表・ポスター発表・論文発表を行った。「正直」については、2019年の口頭発表に基づく論文のデータを精査・拡充し、その一部を論文にまとめ、招待を受けた論文集に2021年2月末に提出した。2021年4月現在、初稿の査読結果を待っているところである。さらに、国際共同論文集において中国・韓国・日本語の比較を行うため、「其実」「大体」についての研究を新たに追加した。 2020~2022年度の継続課題として挙げている研究活動のうち、(a)文献調査、(b)コーパス・データベースの活用および原典調査は、上記の語の研究を進める中で、順調に進行している。また、(c)研究協力者との意見交換・研究発表・最新動向の把握については、コロナ禍のために各種国際学会が中止となったが、オンライン会議やメールによって連絡を密にとり続けることができた。さらに、中国・韓国の共同研究者との国際共同論文集に向けて作成した企画が受諾されており、着実に準備を進めることができている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の2年目にあたる2021年度は、2020年度の研究成果に基づき、以下のような点を中心に、さらに研究を進めていく。 (1)語用論的標識(pragmatic marker)という用語の定義を整理し、本研究における定義をまとめる。その過程において、西洋言語学由来の概念の普遍性と、日本など東アジアの言語に適用する際の留意点や限界などについても丁寧に考察していく。 (2)中国・韓国・日本の共同研究者たちとの国際共同論文集に向け、「結果」「勿論」「其実」「大体」「正直」といった漢語の歴史的変化を論文にまとめる。「其実」については、現在執筆中の論文を専門雑誌特集号の編者に送り、内部査読・外部審査をとおして精緻化を図ることになっている。「結果」「勿論」「大体」については、国際共同論文集に向けて共同研究者間で意見交換をしながら論文にまとめる。「正直」については、調査を終え、その一部をまとめて寄稿した。査読コメントに基づき、さらなる精緻化を図る予定である。また、未発表の部分についても、発表の機会を探りたい。 (3)配慮表現の歴史的変化について調査を進める。例えば、「可能/できる」という漢語と和語の受けとめ方の世代間の相違、聞き手配慮の表現の歴史的変化などのトピックが考えられる。 (4)古記録・古文書や漢籍・仏典などの漢文資料についてもデータベースを活用し、用例調査・分析を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウイルス感染症のため大学図書館の利用が予定どおりに行えなくなり、書籍購入費が増加した。このため、2021年度予算から前倒し請求をして、パーソナルコンピューターやソフトの購入にあてる必要があった。
|