研究課題/領域番号 |
20K00657
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
島 越郎 東北大学, 文学研究科, 教授 (50302063)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 発音されない主語 / 非定形節 / 受動文 / 中間動詞 / コントロール / フェイズ理論 |
研究実績の概要 |
発音されない主語は変項であり、変項への値付与が統語構造を構築する際に課せられるフェイズ理論に基づいて行われることを提案し、その経験的妥当性を次の2つの観点から検証した。 1)非定形節、受動文、中間構文における発音されない主語の解釈の違い: 非定形節内の発音されない主語の解釈は、文中に生起する要素が非定形節内の発音されない主語の先行詞として義務的に解釈される場合と随意的に解釈される場合がある。また、受動文の発音されない主語は非特定的な動作主として解釈され、中間構文の発音されない主語は総称的に解釈される。本研究の分析によると、これらの発音されない主語の解釈の違いは、変項への値付与の違いとして説明される。中間構文の変項は統語構造に投射されず語彙部門で認可されるが、受動文と非定形節の変項は統語構造に投射し、フェイズ理論に従って値が決まる。また、受動文では目的語が主語位置に移動する結果、受動文の変項は意味解釈部門で存在量化詞により束縛される。この分析の下では、非定形節、受動文、中間構文の発音されない主語の振る舞いの違いが統一的に説明できる。 2)動詞の目的語として生起する非定形節に見られる包括的コントロールと部分的コントロールの違い: 非定形節が動詞の目的語として生起する場合、非定形節の発音されない主語が非定形節を選択する動詞の項として唯一的に解釈される包括的コントロール解釈と非定形節を選択する動詞の項以外の要素も含む部分的コントロール解釈が見られる。本研究の分析によると、包括的コントロールの変項は不定詞節を選択する動詞の項により束縛されるが、部分的コントロールの変項は不定詞節を形成するCP主要部により束縛される。この分析の下では、副詞節として生起する非定形節では部分的コントロールが許されないが、主語として生起する非定形節では部分的的コントロールが許される事実が統一的に説明できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、非定形節が動詞promiseの目的語として生起する場合に見られるコントロール・シフト現象(動詞promiseの目的語として生起する非定形節の主語は「約束の動作主」として通常解釈されるが、特定の環境において「約束の相手」として解釈される現象)を考察する予定だったが、予想していた以上に事実が複雑であるため、分析を提示することができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、非定形節と動詞派生名詞句における発音されない主語の特性、動詞派生名詞の内容説明として生起する非定形節内の発音されない主語の解釈、主語や副詞節として生起する非定形節内の発音されない主語の解釈について研究を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、予定していた学会がオンライン開催になり、旅費の支出がなかったため。
|