2023年度は、標記の研究課題のもと、言語変化についての業績(査読付き論文2編、口頭発表1件)、日本語中国語比較統語論についての業績(口頭発表2件)、言語獲得についての業績(口頭発表1件)を得た。 論文業績はいずれも、文法化についてのものである。1つめは単著で、「1つ/ひとつ」という極小化子が焦点化子に文法化する日本語の現象の通時的発達の過程を明らかにしたもので、国際ジャーナルStudia Linguisticaから出版された。2つめはYi Linya氏との共著で、GO/COMEを意味する中国語の動詞qu/laiが語彙動詞から半語彙動詞に文法化しているが助動詞にまでは文法化していないことを明らかにしたもので、国際ジャーナルInterdisciplinary Information Sciencesから出版された。 口頭発表のうち3つは、日中比較統語論であり、岳昱澎氏との共同研究の一部である。うち1つは、漢語から日本語への漢字構文の構造的借用と語種制約に関するもので、2つは、中国語の「喝醉 (drink-drunk)」型複合動詞の構造的多義性と逆行束縛に対して、日本語の心理動詞構文に見られる類似の現象と共通の説明を与えたものである。 口頭発表のうち1つは単著で、日本語の形式名詞「こと」「ところ」「はず」の複数の文法化した用法の通時的発達の過程と、これらの語彙を日本語獲得中の幼児が獲得する過程がほぼ完全に符合することを、日本語歴史コーパスと幼児発話コーパスの調査をもとに示したものである。 これら以外に、Palgrave MacMillan社から刊行予定の論文集の編者として著者17名の論文14編の取りまとめを行ったほか、同書に収録予定の自身の論文4編の執筆を行った。本書は、日本語・英語・バントゥー諸語の形態格の通時的変化と共時的多様性についてのものであり、2024年中に出版予定である。
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