研究実績の概要 |
本研究の目的は英語の閉音節化の原因を特定し、その言語学的意義を示すことにある。700-1100年の古英語ではnama [nama], mete [mete], wudu [wwudu]などの語末の無強勢母音は完全音価を維持していたが、10世紀頃に弱化してあいまい母音になり,さらに中英語(1100-1500年頃)の末までに完全に消失し、英語の大半の語は子音で閉ざされるようになった。その後、16-18世紀の大母音推移による強勢母音の音質変化([i:]>/aj/, [e:]> /ij/, [o:]>/uw/, [u:]>/aw/など)によって、出わたりの/j, w/が閉音節化に関与した結果、語末が子音で終わる語はさらに増えた。初年度は、二重母音の第2構成素[i, u]と長母音の後半部分の[:]はいずれも音節の核を形成せず、リズムにも関与しないので、[i, u]は子音の/j, w/, [:]は子音の/h/とみなして分析し、boy, cow, do, go, see, teaなど多くの語が子音で終わることになることを示した。2年度は、現代英語の語末の母音字〈a, e, i, o, u〉を分析し、在来語では〈e〉のみ語末に生じるが、黙字であり、他の母音字は語末に生じないこと、外来語ではすべての母音字が語末に生じ、黙字とはならないので、語末の閉音節化は在来語に特化した現象であることを明らかにした。最終年度は、coed, hyena, oasisなどの語中でもわたり音の/j, w/と長音符[:]の/h/によって母音連続が避けられ、bee, do, go, see, twoなどの〈e〉以外の母音字で終わる語も同様に閉音節化していることを実証した。その結果、これまで注目されなかった閉音節化は本研究によって英語の史的音変化の原因であったことを示せた。この意義は高く評価できる。
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