全期間を通じ、日本語と英語の時の副詞と時制・アスペクトの解釈について、意味論・語用論から対照研究を行ってきた。最終年度は、条件節に時の副詞句を伴い、反事実の解釈を生ずる日本語の時制・アスペクトの例を、英語と比較し、語用論分析を行った。 令和2~4年度、英語と日本語の現在の時の副詞の直示用法の解釈の違いを中心に扱った。英語のnowは発話時間を指し、過去時制文では語用論的に不適格となり、現在時制の文では状態事象のみと共起するが、日本語「いま」は、近い過去と近い未来を含む時間を指し、過去形・非過去形や出来事事象とも共起する。これらの違いは、物語過去の出来事文の参照時間(基準時)の更新と、現在の時の副詞が共起する記述事象の状態性条件を踏まえ、両言語の時制・アスペクトの体系の構造的な違いと意味論・語用論的相互作用から生ずることが分かった。 英語nowの物語過去の照応的用法や談話的用法は、「いま」にも見られるが(工藤1995)、時間的な意味をもとに語用論的に説明可能であることが分かった。 2つの時制と共起する「いま」の直示用法は、nowと同じ時間的意味を持ちながら、日本語と英語で異なる尺度推意によって可能となることが分かった。 上記の分析は、過去形と現在形と共起する用法に限定したため、最終年度、未来の事象と現在の時の副詞が共起する用法分析に取り組んだが、今後の課題となった。さらに、英語では反事実を表現するためには、特定の時制形や法助動詞が義務的であるのに対し、日本語では直示用法の時の副詞を持つ条件節とともに、特定の時制や法助動詞なしに、明確に反事実の解釈が導かれる。この解釈は、日本語では「テイル」の非完結性に由来する法性と条件付き完全性推論から、語用論的に生ずることを示した。
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