研究課題/領域番号 |
20K00679
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
越智 正男 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 教授 (50324835)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 名詞句 / 一致現象 / 複数形態素 / 類別詞 |
研究実績の概要 |
1.日本語と英語の複数形態素の統語と意味に関してラベリング理論 (Chomsky 2013, Saito 2016)の枠組みに基づく研究を行った。これは、日本語の複数形態素(「たち」や「ら」)が格助詞と同様に反ラベリング(anti-labeling)要素であるとの仮説を探求するものである。この仮説は日本語の複数形態素がWiltschko (2008)が提唱する“modifying plurals”であるとの考えに立脚しており、複数形態素(= 反ラベリング要素)と名詞(句)が併合して出来上がる構造には名詞(句)のラベルが付与されることになる。さらに、日本語の複数形態素が名詞主要部と併合する場合に「plural」解釈が生まれ、名詞項(名詞句)と併合する際に「associative」解釈(例:太郎たち “Taro and his associates”)が生まれるとの提案を行い、二つの名詞句が併合するして複合的な名詞句を形成する場合(例:「大学生らデモの参加者」)になぜ「associative」解釈が強要されるのかの説明を試みた。 2. 昨年度に引き続き海外研究協力者のBrian Agbayani氏と英語の名詞句の統語現象について研究を行った。その一つが寄生空所化 (Parasitic Gap)構文の調査に基づく「素性分割語彙挿入仮説」に関する研究であり、その成果が国際学術誌に掲載された。 3. 昨年度に着手したAgbayani氏とのもう一つの共同研究の成果を米国の学会(オンライン開催)において共同発表した。これは一見不定関係節のように見える構文(例:John has getting into college to consider)が義務的(deontic)モダリティの have to構文から派生されるというRoss (1967)の提案に基づくものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までと同様に、コロナの影響が大きかったことは否めない。予定していた海外出張も再度延期になり、3名の海外研究協力者とはZoomやメール等の手段で連絡を取り合っていたが、計画の大幅な修正は避けられなかった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究では日本語の「数詞+類別詞」表現の統語構造に関してラベリング理論の観点から分析を進め、今年度は日本語の複数形態素の分布に関してもラベリング理論に基づく研究をある程度進めることが出来た。これらの点を踏まえて、次年度は日本語と他言語における名詞句内の諸現象についてラベリング理論の枠組みを用いて研究を進める。一例を挙げると、日本語、韓国語、中国語の複数形態素の性質には共通点も多いが、興味深い相違点があることもわかっている。例えば、中国語の複数形態素-menが固有名詞に付く場合には日本語の「達」や「ら」と同様に「plural」解釈と「asociative」解釈が得られる。その一方で日本語とは異なり、-menが同一名詞に複数付くことはない(例:*Lisi-men-men)。また、「普通名詞-men」の場合には「associative」解釈が出てこない。韓国語に関しては、「associative」解釈を生む形態素(例:-ney)と「plural」解釈を生む形態素(-tul)のそれぞれが日本語の複数形態素と異なる性質を示す。例えば、「-ney」は(一部の例外を除いて)普通名詞に付かない。また「-tul」は日本語の複数形態素よりも制約が緩い側面があり、「-human」の普通名詞にも付く。このような様々な共通点や相違点について海外研究協力者の協力を得て取り組んでいきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回もコロナの影響で予定していた外国出張等が再び延期になった影響が大きい。次年度の研究計画においては複数回の海外出張を組み込んでおり、海外協力研究者との共同研究を加速させる予定である。
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