研究実績の概要 |
前年度に「話者は言語理解と言語運用時にグッドイナフなアプローチ(Goldberg and Ferreira 2022)をとることがあることが、学習者の構文の部分的生産性に関連している」ことが明らかになったため、最終年度は学習者のグッドイナフアプローチについて研究した。Goldberg and Ferreira (2022)では、大人の母語話者に限らず、幼児も言語理解と運用の際にグッドイナフアプローチを取ることが指摘されたが、本研究により、学習者もグッドイナフアプローチをとることが明らかになった。具体的には、学習者がグッドイナフアプローチをとる際、意味的にはラポール構築や参加態度(engagement, Goodwin 1981)が関連し、形式的には繰り返しや協働構文(Langacker 2008: 479)を取ることがあることが明らかになった。
研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、①学習者と幼児の構文学習については、まず幼児と大人の会話では、周りの大人の先行発話を幼児が見聞きする経験(回数)が幼児の構文学習には必要になるが、大学生(学習者)同士の会話では、ラポール構築や参加態度が構文の選択や運用に影響を与えうることが明らかになった。この点は、従来の研究のように構文知識を記述分析しているだけでは明らかにできなかっただろう。構文の運用については、会話・対話・談話の中の構文を分析していく必要があることが本研究により示されたと考える。②構文の部分的生産性については、「構文への認知的アクセシビリティには、その構文への馴染み度(familiarity)も影響する」とGoldberg (2019)で指摘されたが、本研究により、L2会話の場合、参加者のL2習熟度や参加態度(engagement, Goodwin 1981)も構文の生産性に影響することが明らかになった。今後も、母語話者や学習者、子供や大人による会話を分析していくことで、構文の部分的生産性にかかわる要因を明らかにしていけるだろう。
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