研究実績の概要 |
総称文は特定の文形式に対応せず,多様性がある。英語においては,主語に無冠詞複数形が来るほか,不定単数形,定単数形の3種類が認められる。岩部(2016)においては,無冠詞複数形がデフォルト的認知能力に対応するのに対して,不定単数形と定単数形は後に発達する大人の認知能力に対応するという「認知能力の複合性仮説」を提案していた。英語同様,冠詞を持つフランス語やドイツ語においてもこの多様性は見られるが,その対応関係が英語とは完全には一致しないことにも一定の説明を与えていた。その一方,冠詞を持たない日本語で,この多様性がどのように表現されるかについて,一定の見通しを示していた。 本研究の目的は,他言語においてもこの多様性が現れるかどうかの検証を行ない「認知能力の複合性仮説」の妥当性を追求することにある。例えばヘブル語には不定冠詞が存在せず冠詞の機能が極めて限定されており,日本語と同様,冠詞以外の方法でこの多様性が表現されることが期待される。実際,岩部(2021)で示したようにヘブル語では代名詞的コピュラ(Pronominal Copula)がその機能を果たしていることが明らかになった。 総称文とヘブル語代名詞的コピュラの関係はGreenberg(2002, 2008)で示唆されていたものであるが,そこでは同定文の取り扱いが問題であった。本年度はその解決を目指し,成果をIwabe(2022)にまとめた。総称文と同様に代名詞的コピュラが現れるにもかかわらず同定文は総称文ではない,とのGreenbergの主張に対し,同定文は総称文の一つとみなすことができ多様な総称文の一つである,との主張を行なった。 以上のように,冠詞体系を持たない日本語とへブル語においても,総称文の多様性が観察されること,とりわけ日本語とヘブル語の間には密接な対応関係が見られることが研究成果として得られた。
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