本研究では、三人称代名詞Itを含む評言節を文法化・主観化の観点から通時的に考察している。具体的には、三人称代名詞を含む評言節の中でも、Itを形式主語とし、動詞+that 節や形容詞+that 節が後続する構文に焦点を当て、中英語期から後期近代英語期におけるデータを収集し、主語Itの脱落や補文標識thatの脱落の結果、文法化がいつごろから見られるかを考察している。 令和4年度の前半においては、1700 年以降における後期近代英語期の三人称代名詞を含む評言節の用例を収集した。その結果、It may be that のようなItを含む用例からItが脱落して次第に、maybeのような用例が多く見られるようになることが明らかになった。統語的な観点からは、文頭だけでなく文中や文末における挿入的な用法も多く見られるようになることもわかった。 令和4年度の後半においては、これまで収集してきたデータの比較検討と考察に時間を当てた。中英語、初期近代英語、後期近代英語の時代毎に分類された三人称代名詞を含む評言節を比較し、主語Itの脱落や補文標識thatの脱落という観点から文法化・主観化の程度について明らかにすることができた。 本研究では詩、劇、小説などの様々なジャンルの文学作品をデータとして扱ったのであるが、やはり口語性の高いジャンルにおいて、評言節の文法化や主観化の割合が高い様子が見られた。
|