研究課題/領域番号 |
20K00702
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
西野 藍 国際基督教大学, 教養学部, インストラクター (60837425)
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研究分担者 |
坪根 由香里 大阪観光大学, 観光学部, 教授 (80327733)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ノンネイティブ日本語教師のキャリア選択 / タイの日本語教員養成 / 文化心理学 / 復線径路・等至性アプローチ / 海外の日本語教育支援 |
研究実績の概要 |
本研究は、タイの大学の日本語教員養成課程を修了し、中等日本語教員となった者のキャリア形成の過程を描くとともに、その選択に影響を与えた要因を探り、可視化することを目的とする。具体的には、文化心理学を理論的枠組みとする複線径路・等至性アプローチ(TEA)を用い、キャリア形成における意識の変容をタイ社会との関係で捉えるとともに、中等日本語教員というキャリア選択を支える要因を明らかにする。この目的に照らし、2020年度はインタビュー調査、機関調査、文献調査を実施した。 インタビュー調査について、TEAでは「1/4/9の法則」を提案している。これは、1名の分析では径路の深みを、4名の分析なら径路の多様性を追うことができ、さらに9名の分析では径路が類型化できるというものである。最終的には9名のデータを収集して分析する予定だが、2020年度は、調査データの中から1名を取り上げ、径路の深みを追った。分析では、大学入学時には教職をそれほど強く志望していなかった者が、日系企業勤務の父親や教育実習での生徒との関わり等を社会的助勢として中等日本語教員のキャリアを選択した過程を描き、そのキャリア形成にタイの教育政策や日本の公的支援が重要な役割を果たしていたことを示した。また、新たに2名のインタビューも行い、径路の類型化を行うためのデータの蓄積を進めた。 機関調査については、タイで唯一日本語教員養成課程を開設している大学の卒業生約260名を対象とした追跡調査を実施した。結果、卒業生の約7割が中等日本語教員となり、さらにその9割が公務員のポジションを得ていたことが明らかになった。タイにおいて、日本語教員養成課程修了者を対象としたこのような調査は過去に例がなく、その点において非常に意義あるものだと考える。また、文献調査については、タイの教員養成課程のカリキュラム改定に関する公的資料を入手することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスの感染拡大により、2020年度は予定していた現地での関係機関訪問と資料収集、対面でのインタビュー調査が全く行えないという状況であった。しかし、その中でできることに注力した結果、当初の計画と同程度に研究を進めることができたと考える。 具体的には、インタビュー調査は全てオンラインで実施した。2名の調査協力者に対し、それぞれ3、4回のインタビューを行い、目的の一つであるTEM(Trajectory Equifinality Model)図をそれぞれ完成させ、大学の日本語教員養成課程入学前から卒業まで、また卒業後に中等日本語教員になり現在に至るまでのキャリア形成・維持の過程を可視化した。機関調査では、タイ人研究協力者との連携のもと、卒業生約260名を対象としたアンケート調査をインターネット上で実施し、227名の回答が得られた(回収率86.6%)。その結果の一部は、現地の研究会において研究協力者と共同で発表している。文献調査についても、タイ人研究協力者に現地での資料入手を依頼し、提供された資料の翻訳と分析作業を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的な目的は、タイの大学の日本語教員養成課程を修了し、中等日本語教員となった者のキャリア選択・形成の径路の類型化を行うとともに、その選択に影響を与えた要因を探ることである。類型化のためには対象人数を増やす必要があるため、今後もインタビュー調査、機関調査、文献調査を継続して実施する。 インタビュー調査について、調査協力者の負担を考えると、本来なら現地で対面で行うことが望ましい。そのことを承知しつつ、世界的なパンデミックが収束し現地への渡航が可能となるまでは、オンラインによる調査を継続することとする。インタビュー調査と並行して分析も進め、4から5名の結果がまとめられた時点で、学会等で中間報告を行いたいと考える。 機関調査については、2020年度の追跡調査で得られたデータのうち、特に自由記述部分の詳細な分析を行う。これについても、結果をタイ人研究協力者と共同で発表し、知見をタイの教員養成の現場及び海外の日本語教育支援の現場に還元することを目指す。 文献・資料調査については、2020年度に構築した現地機関との良好な関係を生かし、更なる情報収集と翻訳を進める。これらは全て、タイの教員養成制度や日本からの公的支援などの社会的環境が、個人の意識の変容にどのように影響していたのかを明らかにするための基礎資料とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウィルスの感染拡大により、現地への訪問調査が不可となったため、主に旅費として確保していた予算を使用することができなかった。さらに、研究発表を行った学会も全てオンライン開催であったため、そのための旅費も発生しなかった。2021年度以降、現在の世界的なパンデミックが収束し、現地への渡航が可能になった時点で研究代表者、分担者および協力者による訪問調査を再開し、使用する予定である。
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