本研究は第二言語習得理論に基づき、高度海外人材育成のために使用するビジネス日本語教育用教材を開発することを主目的とする。 真正性の高いタスク教材作成のために、まず企業で日本語を使用して働く元留学生に対してアンケート調査を行った。その結果、外国人社員にとって日本語を使用して行う仕事の中で難しいのは、報告書や議事録の作成であることが明らかになった。 その結果に基づき、報告書や議事録作成に必要な能力を養成するための教材開発を進めた。タスクの真正性を重視し、日本企業で働く外国人社員に聞き取り調査を行い、得られた情報を反映させた12課構成の音声教材を作成した。この教材は製菓会社で働く外国人社員を主人公にしたストーリーの中に複数の会議場面を設定し、キーワードのメモ、パラフレーズ、議事録作成などのタスクを配置したものである。 この音声教材を用いて大学院と学部の留学生を対象として実践を行い、学習者の成果物、アンケート調査による学習者のフィードバックを分析した。その結果、音声の内容は理解できるものの、音声を聞きながらキーワードをメモすることは難しいこと、また、書き取ったキーワードを手がかりに情報を再構築することも難しいことが明らかになった。また、学習者に背景知識のない産業を取り上げたことがタスクの難しさに影響していることが示唆された。 最終年度はこれらの問題を解決するために、ストーリーも含めこれまでに作成した教材を全面的に見直し、新たな教材の開発に着手した。真正性の高いタスク教材作成という目標は変えずに、キーワードの聞き取り、情報の取捨選択、パラフレーズ練習なども含め、ボトムアップで必要な能力を養成するという観点も取り入れた。すでに教材の大枠は完成しているが、まだ改善が必要な部分もあるため、引き続き研究を継続していく予定である。
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