本研究は「海外」を「外国人労働者」の供給地ではなく、「共に生きる人=市民」育成の場とするための「海外の日本語教育」の理念と方法を開発するものである。従来の「海外/日本」「日本人/外国人」「日本語/外国語」といった二項対立的なパラダイムを脱し、海を渡る人を一つの生(ライフ)を持った個人と捉え、海外の日本語教育の政策課題と言語教育課題を、言語政策、移民政策、シティズンシップ教育の文脈から提案する。また、日本語教育の推進に関する法律(「日本語教育推進法」)が成立したことを受け、海外の日本語教育実践者の視点から、海外の日本語教育の意義と必要性について日本へ提言を行う。この認識を下に、本研究は以下の課題に応える。 ①海外と日本を連続体とみなし、「海外の日本語教育」を言語政策、移民政策、シティズンシップ教育の観点から捉えなす理論的フレームワークの開発【政策理論課題】 ②複言語教育としての日本語教育の意義と方法の開発【言語教育課題】 課題①は、文献研究、研究会・学会での発表、論文執筆により理論構築を行う。課題②は、国内においては、現在、「「日本語教育の参照枠」の補遺版検討に関するワーキンググループ」の協力者として活動をしており、日本の日本語教育政策の文書に反映していく。海外においては、2023年度は、タイ、ベトナム、アルゼンチンの日本語教育機関と共同で、オンラインによる教育実践、交流活動を行っている。また、ネパール、ウズベキスタンにおいて、就労者向け日本語教育機関を訪問し、現状の聴取、今後の協力体制について協議した。 在留外国人が増加する現在、日本において日本語教育の整備が急速に行われている。本研究は、理論研究のみならず同理論を実際の現場に応用するものであり、喫緊の課題に対応するものである。また、日本のみならず海外の機関と協働することで、移動する個人に即したものである点でユニークであると考える。
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