研究課題/領域番号 |
20K00741
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
Cecilia・N Silva 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (40361208)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 異文化コミュニケーション / オンライン交流 / 文化・歴史的活動理論 / 遺産 |
研究実績の概要 |
2020年に実施した研究では、メディエーションの概念、すなわち物質世界、あるいは他者の活動に対するものとして文化的に生成されたアーティファクト、概念、活動をわれわれ人類が利用する過程(Lantolf & Thorne, 2006)に着目し、オンラインでの交流における異文化理解能力のための理論的枠組みを構築することに焦点を当てた。枠組みの構築にあたっては、言語技能、文化交流、およびウェブツールの関係性に重点を置き、主に2つの視点、すなわちMcLuhan(1964)とHall(1976)の古典的な考察、ならびにByram(1991)とShaules(2019)の新たな見解を取り入れた。
また、異文化交流の環境に関する2020年に2つの発表を行った。まず、(1)「異文化交流におけるアクティブ・ラーニングの枠組み」を第46回Jalt大会において、ワークショップの一部としてオンラインで紹介した。次に、(2)「異文化との出会い:空間の再定義および理論と実践における新たな課題」を関西外大が開催したオンラインセミナー「外国語として学ぶスペイン語クラスにおける異文化理解能力:新時代の教育における課題」で紹介した。
さらに、「メディエーション」の概念について2つの記事を寄稿した。高度教養教育・学生支援機構紀要第7号pp.319-329に掲載された 「オンライン授業におけるメディエーションの概念」では、メディエーションと活動の概念に焦点を合わせ、東北大学において外国語としてのスペイン語をオンライン環境で学ぶ学生の認識を報告している。「言語文化教育センター年報 第6号(2019)」pp.7-13に掲載された「異文化交流のための仮想空間の構築」では、対面のインタラクションがない異文化交流において学生たちが見落としがちなポイントを見極め、より自然なインタラクションを提案する必要性に焦点を合わせた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、以下の理由により円滑に進行している。 1.異文化コミュニケーション能力に関する情報は豊富にあるため、異文化についてのテーマと言語をつなぐ理論的枠組みの構築、そして適切なモデルの生成は達成できた。一方で、これまでに構築してきた枠組みにさらなる要素やバリエーションを加えるため、他のモデルを探し出す作業が必要である。具体的には、交流の場を物理環境から仮想環境へと移行する際に求められる要素を枠組みに追加する作業となる。また、メディエーションと活動の概念に関する研究は完了しておらず、さらなるリサーチを要する。さらに、理論的枠組みの中に「背景」の概念を含める必要がある。2.異文化についての理論、および授業やオンライン体験への理論の適用については、異文化教育研究所の定例会議に参加し、研究に対するコメントや提案を受けるとともに、参考文献情報を入手した。3.異文化オンライン交流モデルの実施においては、参加者が東北大学でスペイン語を学ぶ学生であることから、アクティビティの評価や修正を頻繁に行うことが可能である。また、すでにスペインの大学に連絡を取っており、日本語を学ぶ学生が東北大学の学生とのオンライン交流に参加する予定となっている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の次のステップは、「背景」と活動の概念、および異文化についてのテーマをポートフォリオに含めることである。また、言語学習と異文化交流の関連性の度合い、および仮想環境にも共通し得る物理的空間の特徴を見極める。2021年には以下の2つのタスクを並行して実施する。仮想空間での異文化交流に対する学生の意識調査の結果の一部を、東北大学でスペイン語を学ぶ学生と外国人学生との交流アクティビティの設計に活用する。理論モデルを、東北大学で第二外国語としてのスペイン語を学ぶ学生と、カスティーリャ・ラ・マンチャ大学で日本語を学ぶスペイン人学生の間で行われる試験的なオンライン交流体験に適用する。この取り組みの一部は、第47回全国語学教育学会国際大会(2021年11月12〜15日に静岡県で開催)において紹介する予定となっている。 さらに、「背景」の概念を応用し、日本の文化的背景に関する資料を作成するよう学生を指導し、スペインの学生が作成するスペインの文化的背景に関する資料と交換する。この取り組みの一部は、「異文化理解能力の発展と評価に関する第8回国際会議」(2022年1月27〜30日にアリゾナ大学にてオンラインで実施)において紹介する予定となっている。また、試験的な交流体験と関連するアクティビティの結果の一部をまとめたものは、高度教養教育・学生支援機構紀要第8号に投稿する。 以上のとおり、2021年度予算は主に、異文化ポートフォリオの構築、試験的な異文化交流体験の実施といったフィールドワークに使用する予定である。また、会議への参加や必要な物品(ビデオカメラ、メモリーカード、参考書など)の購入、論文の校正にも割り当てる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度予算の一部が使用されず、2021年度予算に繰り越される主な理由は、COVID-19のパンデミックにより、参加を予定していた3つの国際会議に出席できなかったためでる。理論的枠組みに新しい要素を加えることにあたって、異文化間コミュニケーションに関する、Hall(深層文化)、Byram(言語と文化の関係)、およびShaules(認知機能の視点)による3つの主要な研究を主にてきた。ポートフォリオの構成については、オーラルコミュニケーションと異文化能力および背景に関するポートフォリオの2つに分けることにした。現在、交流アクティビティ、試験的な体験、およびそれらのルールを設計している。 予算が必要となるタスクは次のとおりである:a)日本語を学ぶスペイン人学生と、スペイン語を学ぶ日本人学生による試験的なオンライン交流を実施するため、カスティーリャ・ラ・マンチャ大学の日本語教師とすでに連絡を取っており、両者間で人的および技術的リソースの準備を進めている。b)試験的な交流体験の結果を発表するため、「異文化理解能力の発展と評価に関する第8回国際会議」(2022年1月にアリゾナ大学にて開催)に出席する。c)現在までに構築した理論的概念とモデルを使用するため、ダッカ大統領大学(バングラデシュ、2021年9月)にて行われる「教師のための教師による作業部会」におけるアクティビティを設計する。
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