研究課題/領域番号 |
20K00741
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
Cecilia・N Silva 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (40361208)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 文化 / 異文化 / オンライン交流 / ポートフォリオ / 文化遺産 |
研究実績の概要 |
2021年に実施した研究では、語学クラスにおける仮想環境の特徴や複数の文化学習教授モデルを議論することで、オンライン交流による異文化理解の理論的枠組みを強化することに焦点を当てた。 また、異文化交流の環境に関する5つの発表を行って、仮想空間の概念を見直すとともに、仮想空間が持つべき特徴を説明して、文化歴史活動論(Cole & Engestrom, 1993)の観点から異文化交流を、実践共同体(Wenger, 1999)の観点から学生の相互作用について説明して、仮想環境における語学教育の新たな空間について論じた。 枠組みの強化にあたっては、異文化間コミュニケーションに関する理論を実践に役立てるために、Janet BennetとMichael Byramの見解を取り入れた。異文化間活動の環境との関連では、学習空間として、あるいは文化生産・交流のために、ファシリテーターがどのようにしてこれらの空間を構築していくかが重要であると考えた(Kuntz & Berger, 2011:145)。 モデルに関しては、2022年3月発行の高度教養教育・学生支援機構紀要第8号pp.185-194に掲載された論文『異文化理解能力モデル:理論から実践まで』で、文化と異文化理解能力の概念化、および外国語クラスにおけるその統合について、3段階に分けて論じた。 この理論的枠組みを用いて、東北大学で第二外国語としてスペイン語を学ぶ学生と、カスティーリャ・ラ・マンチャ大学で日本語を学ぶスペイン人学生の間で試験的なオンライン交流を実施した。このパイロットケースでは、文化的な内容を含むアクティビティ、学生同士の交流、学生によるビデオやリポートなどのポートフォリオ制作が行われた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、以下の理由により円滑に進行している。 1.異文化コミュニケーション能力に関する情報は豊富にあるため、異文化理解のテーマと言語をつなぐ理論的枠組みの構築、適切なモデルの生成が達成できた。一方で、「背景」の概念に関する研究は完了していないため、今年さらに注力する予定となっている。また、理論的枠組みの中に「背景」の概念と異文化コミュニケーションの円滑なつながりを構築する必要がある。 2.異文化理解の理論、および授業やオンライン体験への理論の適用については、異文化教育研究所の定例会議に参加し、本研究に対するコメントや提案をいただくとともに、参考文献情報を入手している。また、全国語学教育学会「語学教育における異文化コミュニケーション」分野別研究部会にも参加し、異文化理解の理論をどのように授業に活かすかについて議論している。 3.異文化オンライン交流モデルの実施においては、被験者が東北大学でスペイン語の特別コースを受講した学生とコンプルテンセ大学でオンラインコースを受講した学生であったことから、アクティビティの評価や修正を頻繁に行うことができた。また、過去の国際会議や東北大学の交流プログラムを通じて、自身が抱える学生を日本人のスペイン語学習者との異文化交流に参加させることに関心のある日本語教師とコンタクトを取り、東北大学とカスティーリャ・ラ・マンチャ大学の学生の間で試験的な取り組みを行うことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
次のステップでは、異文化交流のテーマとしての「文化遺産」の概念と、学生によるポートフォリオ制作に焦点を当てた研究を行う。これにより、異文化交流と「背景」の概念との関連性の度合い、学生が過去からどれだけ学び、言語学習に応用できるか、そしてそのようなテーマを仮想環境で展開する方法を明らかにする。2022年には以下の2つのタスクを並行して実施する。
(1)東北大学で第二外国語としてスペイン語を学ぶ学生と、カスティーリャ・ラ・マンチャ大学で日本語を学ぶスペイン人学生の間で行った試験的なオンライン交流体験の結果を分析する。この結果は、全国語学教育学会分野別研究部会2022年次大会(長野県、2022年7月)で発表し、交流プログラムの設計に役立てる予定である。(2)日本の文化的背景に関するポートフォリオを作成するよう学生を指導し、スペインの学生が作成するスペインの文化的背景に関するポートフォリオと交換する。この取り組みの一部は、第48回全国語学教育学会国際大会(福岡県、2022年11月)および第32回ASELEスペイン語教育法学会国際大会(ヴェローナ大学、8月31日)において紹介する予定となっている。
以上のとおり、2022年度予算は主に、異文化ポートフォリオの作成および交流体験の実施といったフィールドワークに使用する予定である。また、会議への参加や必要となる物品(メモリーカード、電子ボード、参考書など)の購入、ティーチングアシスタントへの支払い、論文の校正にも割り当てる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度予算の一部が使用されず、2022年度予算に繰り越される主な理由は、COVID-19のパンデミックにより、参加を予定していた国際会議が全てオンライン開催となった他、学生が大学に集まれず、交流やポートフォリオ作成用に入手予定だった電子ボードを購入しなかったためである。 理論的枠組みに新たな要素を加えるにあたっては、Hall(深層文化、1973)、Byram(言語と文化の関係)、Shaules(神経認知的視点、2019)、およびO’Dowd (2007, 2018)による共同タスク、集団探究、社会的相互作用を伴う実践的な経験といった、異文化間コミュニケーションに関する主要な研究を主にリサーチしてきた。学生グループには異文化理解のためのポートフォリオ制作を始めてもらったので、2022年度におけるポートフォリオ制作の主要テーマとしては、「背景」の概念に焦点を当てる予定である。 予算が必要となるタスクは次のとおりである。a)試験的な活動実施に向けた電子ボードの購入、b)試験的なオンライン交流体験の結果発表を目的とした第1回「語学教育における異文化コミュニケーション」会議、第48回全国語学教育学会国際大会、および第32回ASELE国際大会への出席。
|