本研究は、通訳翻訳研究におけるTILTの考え方を日本の英語教育研究に適応し、教室現場での具体化および効果の検証をすすめることを目的として、場面や目的を明確にしたコミュニケーションとしての翻訳タスクを開発し、言語習得の観点と仲介能力の育成という二つの観点からその効果の測定・評価を行った。 最終年度にあたる2022年度(令和4年度)は、2021年度に引き続き、開発したコミュニケーションとしての訳を実現する言語活動の実践と、その効果検証を行い、研究成果としての取りまとめを行った。具体的には、(1) ピアスピーチ通訳演習(一人が口頭で英語によるスピーチを行い、それをもう一人、またはグループで日本語に同時/逐次通訳する活動)を通して、デリバリ向上や通訳態度の変化が見られ、単語を聞きとって訳すといった「言語転換」としての訳が、次第にアイコンタクトを取りながら聴衆に話すといった「コミュニケーション」としての訳に変容した様子が観察された、(2) 仲介的リテリング活動(ペアのスピーチをノートテイクをしながら聞き、それを別の相手に英語で伝える活動)を通して、さまざまな仲介方略(原発話を分かりやすく再構成して伝えたり、平易な語句に置き換えて伝えたり、あるいは省略や強調をしながら伝えたりする等)の使用感が高まる様子が観察された、(3) 字幕翻訳の作成演習活動(短めの英語動画を素材として、グループで協働して日本語字幕を作成する活動)を通して、訳の「難しい」イメージはあまり変わらないものの、より「楽しい」「明るい」といったイメージに変容している様子が観察された。 これらの個別の実践例を通して、TILTの理念を具現化したいくつかの言語活動の効果が(その一部ではあるものの)明らかとなった。
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