研究課題/領域番号 |
20K00803
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
保田 幸子 神戸大学, 大学教育推進機構, 教授 (60386703)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 科学論文 / アカデミックライティング / ESP / 書き手 / 主体性 / ヴォイス (Voice) / 英語教育 / 修辞技法 |
研究実績の概要 |
本研究は,科学英語論文において,書き手の主体性がどのような文体や語彙で表現されているか,その実態を選択体系機能言語学(SFL)の理論的枠組みに基づいて分析し,科学英語の書き手が読み手を導く修辞技法についての新たな知見を得ることを目的として実施された。背景には,科学英語論文の執筆と出版の必要に迫られた学習者層を対象とした高年次英語教育および支援体制の不足がある。優れた研究成果を持ちながらも,その発信において,様々な問題に直面し,見よう見まねで論文を執筆している学習者は多く,彼らへの英語教育と支援体制を整備することが急務となっている. 2021年度は,2020年度に収集したデータを整理し,多分野論文コーパスを作成した上で,書き手の主体性を示す表現例を抽出し,SFL理論に基づいて機能別に分類した。また,特定の表現の出現率に基づく計量的分析により,好まれる文体が時代とともにどう変化しているかについても分析を行った。 本研究の結果は,「書き手の個性や主体性を読み手に伝える」という新しい視点に立つもので,従来の「論文では客観的事実のみを書く」や「一人称の使用や曖昧な表現は避ける」という標準とは相反するものである。本研究により得られた成果は,21世紀の科学論文では書き手の個性や主体性を明示的に示すことが推奨されつつあることを示している。 得られた成果を,国際的に通用する論文執筆に関する新たな科学英語教材として発信すべく,本を執筆し,2021年12月にひつじ書房より単著として刊行した。本のタイトルは『英語科学論文をどう書くか:新しいスタンダード』である。加えて,研究の学術的意義が国内外の学会に認められ,論文が『日本教育工学会論文誌』45号に掲載された。国際ジャーナルであるEnglish for Specific Purposesにも2022年度の号に掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果を単著(1本),論文(2本),学会発表(2回)の形で発信することができた。計画通りに進められていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
科学英語論文の執筆と出版の必要に迫られた学習者層を対象とした高年次英語教育および支援体制の構築に向けて,今後は,デジタルコンテンツとしての発信を検討したい。これは,ポストコロナ時代の新しい形の学習スタイルでもある。そのために,自然科学系の研究者と連携し,より現実的で具体的なニーズを把握することに努めたい。また,英語による科学論文執筆のニーズは,日本国内にとどまらず,韓国,中国,タイ,ベトナムなど東アジア全体の研究者のニーズでもあることから,今後は,海外の出版社から英語での科学論文執筆教材を刊行したいと考えている。l
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会に出席し,研究発表を行うために,渡航に係る経費を計上していたが,コロナ感染拡大により,海外渡航ができなくなった。本年度,アメリカでは,対面での国際学会が開催され始めているため,海外での研究発表を実現したいと考えている。また,自然科学系の研究者との連携を通して,科学論文執筆のためのデジタル教材開発を進めたいと考えているため,協力していただいたことへの謝礼として使用させていただきたいと考えている。
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