研究課題
本研究は、英語教育において、学生の主体的かつ能動的な学びの機会を増やし、学習者オートノミー(学習者が自身や学習過程を深く理解し、学びに責任を持つ能力)を促進することを目的とし、学生主導型ラーニング・コミュニティの普及と、それに伴う学生リーダー育成のためのコースの開発を行う。コースでは、学生リーダーが自身のオートノミーを育むだけではなく、リーダーがコミュニティメンバーのオートノミーの養成する力を身につけることが、コミュニティの拡大と持続に必要なことと捉える。2020年度においては、本学自律学習センターにて、1)コースのデザイン、2)グループ1受講、3)コース編集、5)グループ2受講、6)グループ1の受講経験のナラティブデータ収集、分析、論文推敲・投稿を行なった。6)の分析では、5人の受講生のコミュニティ運営におけるニーズとコースに受講よる自身の価値観や考えへの影響を探った。分析結果によると、それらの学生はリーダーシップ知識に乏しく、リーダーが全ての責任と決定権を持つ絶対的な存在という概念を持ち、プレッシャーを感じていた事がわかった。また、コースにて、コミュニティ参加者全体のコミュニティ運営への参加を促すリーダーシップ手法を実践し、その価値を実感した。さらに、意識的内省の習慣化は、自身の意思決定やリーダーシップに対する自信に繋がった。また、それらの過程を経て、コミュニティが実践共同体に発展する様子が学習者ナラティブから分析できた。文献レビューでは、英語教育における社会的視点は一層価値が認められているものの、社会構成主義的な立場を取った研究が主であり、実践共同体を介した社会的視点(学習者がコミュニティの一員としての知識やアイデンティを発展させる)は希少であると判明した。また、英語教育における、学生リーダーシップに関する研究も稀であり、本研究はそれらの分野に寄与できると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は、コロナの影響により、出張を伴わない項目1「本研究機関におけるコミュニティリーダー育成コースの実践研究」に力を入れた。コースは、Kolb(1984)の体験学習サイクルモデルを応用し、新しい概念の学びと個々のニーズに沿う実践を介した自律学習をデザインした。各週、学生リーダーは、他者のオートノミーの促進し、コミュニティを発展させるための概念(ビジョン、自己決定理論、リーダーシップスタイル、実践コミュニティ、アドバイジングスキル、等)を学び、それらの概念を自らのコミュニティーにおいて実践し考察、翌週の目標設定という学習サイクルを行なった。また、コースの中核となる部分は意識的内省(consicous reflection)であり、講師・アドバイザーによる、ジャーナルやZOOMを利用したアドバイジングにより、意図的な内省対話(Intentional Reflective Dialogue)が行われ、それを促した。コースは、4月から7月まで、学習者主導型ラーニングコミュニティのリーダーの学生の希望者が受講し、受講者5名の経験はナラティブ分析を行い、その結果はコースの内容を編集に活用された。編集されたコースは、さらに第二グループとなる、立場の違う学生リーダーが、9月から2月まで受講し、その応用性を試した。第一グループのナラティブ分析結果は、論文にまとめ(単著)、3月に投稿。現在、査読・審査中である。また、コロナ禍における、学生コミュニティとリーダーシップの重要性を含めた、共著の論文は、9月に発表された。さらに、学生主導型コミュニティにおける学習者の基本的心理欲求の充足の研究は、2021年度に本の一章として出版される(単著)。
本研究の、三つの項目の一つ目である「本研究機関におけるコミュニティリーダー育成コースの実践研究」は、前年度に引き続き行う。大学内の様々な立場にある学生リーダーに受講対象者を拡大し、既に二度編集されたコースの応用性を試す。項目二である「国内外の関連する機関の視察」については、コロナ禍につき、実際に機関の視察は行えないが、文献やMOOC(大規模公開オンライン講座)等を通して、教育機関のみならず企業や組織における、実践共同体とラーニングコミュニティについて調査する。それにより、有効かつ持続可能なコミュニティの要素、コミュニティから実践共同体に変化を遂げた推移、リーダーの役割等を探り、翌年の訪問に備える。また、本年度に重きをおくのは、項目三の「国内教育機関の学生リーダー育成と授業外協働学習に関するのニーズ分析」である。まず、前年度の研究結果のオンラインによる学会発表等を介し、他の自律学習機関との繋がりと協働学習と学生リーダー育成に関する意識の共有を深める。その繋がりをもとに、協働学習の日本の自律学習機関における浸透性、それらの学生主導率、学生リーダー育成のニーズ等を、インタビューやアンケートにて分析する。さらに、その過程で、項目一にて開発されているコースの試験的な取り入れが可能な機関を探す。それらの取り組みを通して、項目一で開発されているコースを、より応用可能な内容とフォーマットへと改善する。
翌年度の助成金は本来であれば、海外教育機関視察の旅費が主となる予定だったが、コロナ禍によりかなわないと見られる。その場合は、研究に必要な物品の購入、研究参加者への謝金、学会参加費に当てられる。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Studies in Self-Access Learning Journal
巻: 11(3) ページ: 135 147
10.37237/110304