研究実績の概要 |
第二言語習得研究分野では、複雑系理論の登場により、個々の学習者の長期的な発達の仕方(個人内発達)が研究されるようになった。申請者らも複雑系理論を用いたこれまでの研究で、日本人英語学習者が同一のライティングタスクを1年間繰り返した場合、個人のライティング発達に特定のパタンが生まれることを明らかにしてきた。しかし、これまでの研究では少数の個人の発達パタンの比較にとどまっているため、一般化が難しかった。 そこで本研究では500名を超える学習者について新たな統計手法を用い、個人内発達パタンを分類・モデル化することを目指した。その上で、作文やインタビューを質的に分析することで、それぞれの個人内発達パタンにつながる要因を明らかにすることを目的とした。 2023年度には、概ね研究計画通りに、発達パタンの質的な要因分析を行った。この研究成果に基づき、イギリスガーミンガムで開催された学会EuroSLA 32において研究発表を行った。 研究期間全体としては、上記の目的を概ね達成できたと考える。すなわち、general growth mixture modeling(一般成長混合モデリング)を用いたモデル化によって、学習者によって異なる発達パタンをたどることが明らかになり(Baba & Nitta, 2021)、さらに発達パタンが異なる要因として、タスクに取り組む際の感情や態度、内省の仕方が異なっていること(Baba, 2020; Nitta & Baba, 2018)や学習する際の主体性に差があること(Nitta & Baba, 2023)を示した。 一方で、上記の研究の中で、うまくライティング力を伸ばすことができない学習者も発見されたが、その発達を後押しするような手立てについては十分に研究できなかった。そこで次の研究では第二言語ライティングに対する何らかの教育的介入について調査したい。
|