研究課題/領域番号 |
20K00890
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
吉村 富美子 東北学院大学, 文学部, 教授 (80310001)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 名詞化 / 英文読解 / 読解への自信 / 指導効果 / nominalization / academic reading / self-efficacy / instruction effect |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、名詞化 (nominalization) に着目した指導が日本人大学生の英文読解 (EFL reading) と読解への自信 (self-efficacy) (Bundura, 1994)に与える効果を検証することである。大人が読む英語の書き言葉の最も顕著な特徴である情報の凝縮と抽象的な内容という特徴を創り出している「名詞化」について明示的に指導を行うことで、日本人大学生の名詞化への理解を深め、その結果、英文読解力を高めたり英文読解への自信を深めたりすることができるのかを実証研究を行って検証している。 2020年度には、第一回目の実証研究を行い、①名詞化練習、②非名詞化練習、③接頭辞・接尾辞の形式と意味の指導、④名詞化を使ったTheme-rhemeの文章展開法の説明、⑤Zigzag法による文章展開法の説明の5つの「名詞化」に着目した指導を行うことによって、英文読解力を高めたり英文読解への自信を深めたりすることができるのかを検証した。そして、これらの指導は英文読解力の向上に有効であることと、英文読解に対する自信についてもいくつかの項目で向上したという結果を得た。2021年には、データ分析において正解の設定に1か所誤りが見つかったためデータ分析をやりなおしたが、大まかな傾向に変わりはなかった。また、2021年度には第二回目の実証研究を行い、第一回目の実証研究における読解力の向上が英文テキストや質問内容の相違によるものではないことを実証的に示すことができた。また、文献研究で学んだ名詞化の歴史や用法について「なぜアカデミックイングリッシュを学ぶべきなのか」という論文を『東北学院大学論集』誌上で発表することもできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2年目である2021年度には、三つの点で研究を進めることができた。一つ目は、2020年度に行った読解テストの正解の設定に1か所間違いが見つかったため、2020年度のデータ分析を最初からやり直したという点である。二つ目は、2回目の実証研究を行い、2020年度に行った読解テストの変化について比較研究を行った点である。一回目の実証研究においては、名詞化に関わる指導後には読解テストの点数が向上したという結果を得た(この点については分析をやりなおしても、4.50 (SD 1.93) から4.95 (SD 1.97) にと .45 (SD 2.58) ポイント点数が向上した。ただし、統計的有意には至らなかった)が、この読解力の向上についてはpre-testと post-testにできるだけ同質にするような配慮はしたものの異なる教材を使ったため、テキストや質問の相違、または練習効果 (practice effect) の影響の可能性を排除できなかった。そこで、2021年度には、名詞化についての指導を行わない統制グループを作り、2020年度と同じpre-testと post-testを用いて読解テストを行った。結果は、読解テストの点数が5.83 (SD 2.13)から5.44(SD 1.90)と .39(SD 2.20)ポイント減少した。この結果は、2020年度の読解テストの点数の向上がテキストと質問の相違や練習効果のためではなく、指導の効果であることを支持するデータとなった。三つ目は、文献研究で学んだ名詞化の歴史や用法について論文「なぜアカデミックイングリッシュを学ぶべきなのか」にまとめ、2021年3月出版された東北学院大学論集105号に掲載することができた点である。従って、本研究は着実に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には主に二つを行いたい。一つ目は三回目の実証研究を行うことで、二つ目は研究成果を発表することである。 まず、一つ目の三回目の実証研究について説明する。一回目の実証研究で、接辞 (affixes)と名詞化(nominalization)に関わる指導を行って、この指導が日本人大学生の英文読解に与える影響を検証した。二回目の実証研究では、名詞化に関わる指導をしない統制グループを作って、一回目の実証研究の読解テスト結果がpre-testと post-testで用いた英文テキストや質問の相違、あるいは練習効果 (practice effect)によるものではないことを示すことができた。三回目の実証研究では、接辞 (affixes)の指導を行わないで名詞化(nominalization)のみを指導した場合の読解への影響について検証したいと考えている。この理由は、多くの先行研究から接辞(affixes)の指導が読解力を高めることが明らかにされているので、一回目の実証研究の結果が接辞の指導によってもたらされたものである可能性があるからだ。そこで、一回目の実証研究から接辞の指導を除き、①名詞化練習、②非名詞化練習、③名詞化を使ったTheme-rhemeの文章展開法の説明、④Zigzag法による文章展開法の説明の4つの「名詞化」に着目した指導を行うことによって、英文読解力を高めたり英文読解への自信を深めたりすることができるのかを検証したいと考えている。三回目の実証研究を行うことで接辞の指導の効果を排除することができるため、名詞化指導のみの効果を検証できると考えている。 次に、研究成果の発表についてだが、2022年度は本研究の最終年度であるために、学会で研究成果を発表したり、実証研究論文を執筆し学術雑誌か研究紀要に投稿したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に次年度使用額が生じた理由の主なものは2020年度の繰越額が大きかったことがあげられる。当初の計画では、2020年度に文献研究等を中心とした研究準備を行い、2021年度は実証研究を行う予定であった。2020年度には、実証研究に用いる英文テキスト校正用の謝金を多く予定していたが、実際は予定よりも少なくて済んだ。また、コロナ禍で授業をオンラインで行うための準備に時間をとられ、あまり研究に力を入れることができなかったことで書籍購入額も少なかった。2021年度は、研究に力を入れられる環境になり、文献研究も進み実証研究も行うことができたので、かなり予定金額に近い額の予算使用ができたと考える。 2022年度の使用計画としては、主に三つの使い道を考えている。一つ目は、三回目の実証研究を行いたいので、そのデータ分析のための人件費に使用したい。二つ目は、研究結果を論文にまとめたり学会発表を行いたいので、その英文校正のための謝金に使いたい。三つ目は、研究結果について学会発表を行いたいので、学会出張のための旅費、宿泊費、参加費に使用したい。ただし、予算申請の際には海外の学会での発表を想定していたが、コロナ禍のため海外渡航は難しそうである。その場合は、最終的には予算を全部使い切ることは難しくなることが予想される。
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