本科研最終年度においては、これまでの研究成果をまとめた単著『現代中国語の文語』を2024年1月に関西大学出版部から出版した。 研究期間全体を通じて、現代中国語の文語が使用されている資料をコーパスとして分析し、その使用状況と言語的特徴を明らかにすることを目的として各種の資料を分析した。実際に利用した資料は、法律文書、食品パッケージ、医薬品説明書といった専門分野での文語使用の実態を構文論的・意味的に分析し、さらに比喩表現、プロソディ、告知文のリズムなど、言語の認知的側面に焦点を当てた分析を行った。法律文書の分析では、二重目的語構文や受身文など特定の構文が使われていないことを指摘した。 食品パッケージの文言分析では、標準規格と実際の商品の文言を比較し、義務表現・禁止表現などの当為表現に違いがあることを指摘した。新型コロナウイルス感染予防の告知文分析では、中国の告知がリズム・韻・比喩表現を重視していることを日本の告知文と比較しつつ論じ、防疫に関する比喩表現の多用を指摘した。さらに、小学校1年生から高校3年生の中国語母語話者による中国語作文コーパスを作成し、学年の上昇に伴う文語使用の変化を考察した。その結果、“而”、“之”、“于”、“此”、“如”、“其”など形態素を含む単語の使用頻度が学年とともに上昇し、一部の口語語彙が学年の上昇とともに使われなくなることを明らかにした。そしてこれらの形態をを含む表現はある文書に文語がどの程度使われているかをみるための基準となり得るとした。 これらの資料は、従来の言語研究では使われていなかったものであり、その分析は、中国語の文語使用の実態と特徴を明らかにし、言語研究に新たな知見をもたらしたと思われる。
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