研究課題/領域番号 |
20K00908
|
研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
木津 弥佳 (田中) ノートルダム清心女子大学, 文学部, 教授 (00759037)
|
研究分担者 |
行木 瑛子 沖縄大学, 経法商学部, 准教授 (40781208)
ドーティ パトリック 国際教養大学, 国際教養学部, 教授 (50438256) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | metapragmatic knowledge / metapragmatic awareness / L2 pragmatics / interactional competence / intercultural competence |
研究実績の概要 |
本研究は、外国語としての日本語学習者(英国在住)と英語学習者(日本在住)を研究対象とし、相互行為能力を縦断的に研究すること目的として2020年に開始した。しかしコロナ禍により想定したデータ収集を行うことができなかったため、本研究以前のデータを使用した研究に切り替えた。その状況の中、23年度は22年度に行った学習者の「と思う」と “I think”の解釈の分析結果を踏まえ、2点の研究成果をあげることができた。
まず1点目は、英語母語の日本語学習者が会話中で使用する「と思う」が英語母語の教員、英語母語の学生、日本語母語の教員と日本語母語の学生の4つのグループでどのように解釈されるかを調査したものである。合計83名の研究協力者からの「と思う」解釈に関する回答をもとに分析した結果、どのグループでも「と思う」の意味機能によって認識の度合いが異なること、意味機能に関して自由記述よりも選択肢を与えられた方が答えやすいこと、さらに、英語母語の協力者は日本語が非母語であることにより意味機能解釈に制限がかかることが明らかとなった。この研究成果は7月に国際学会で発表した。
2点目は、日本語母語の英語学習者によるI thinkという認識的スタンス標識を学習者自身がどのような意図で会話中に使用しているか、また、その聞き手である英語母語教員はその意図を理解しているかを調べ、話し手と聞き手の解釈を分析した研究結果を論文としてまとめたことである。この論文では、習得が容易だと考えられているI thinkは、実は意図した通りに聞き手に伝わっていない場合があるだけでなく、緩和と強調という相反する機能として話し手と聞き手が解釈している例を提示し、さらに、先行研究のI thinkの意味機能モデルを支持しつつ、修正版を提案した。なお、この論文は日本語用論学会発表論文集に寄稿したものから、さらに考察を深めたものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の研究活動計画のうち、「と思う」に関する研究では、予定通りグループ別の調査対象者による結果を量的・質的に分析し、その研究成果を7月に開催された第18回International Pragmatics Association Conferenceにて、“-To omou (‘I think’) utterances in L2 Japanese: testing the effect of user background on their interpretation”というタイトルで無事発表を終え、多くの有意義なフィードバックを得ることができた。また、日本語母語の英語学習者によるI thinkの使用に関する分析をさらに深めて論文としてまとめるということについては、Journal of Pragmaticsに投稿するための論文を作成し、その過程でさらに考察を深め、内容が充実した論文を完成することができた(現時点では既に投稿済み、査読審査中)。しかし、次の2点については諸事情により次年度に持ち越すこととなった。一つは、上記二つの研究を融合して英日双方向からの分析を試みるという計画について、もう一つは、最終的な目標でもある指導法への示唆を目指した横断的調査の実施である。これらの理由から、23年度の本研究は「やや遅れている」と判断し、補助事業期間の延長を申し出て承認されている。
|
今後の研究の推進方策 |
24年度が最終事業年度となるため、本研究の最終目標である語用論的知識と相互行為能力を養う外国語としての日本語・英語の効率的な指導法について、英語母語の日本語学習者と日本語母語の英語学習者を対象に、横断的調査を実施する。具体的な調査の内容としては、日本語学習者と英語学習者に日本語でのタスクと英語でのタスクを準備し、そのタスクにそって母語話者と対話を行って、その対話の中で生じた認識的スタンスに関する表現を分析していく。その結果が教室内での指導にどのような示唆をもたらすのかを考察するとともに、これまでの「と思う」と “I think”の研究結果から、外国語としての日本語と英語の学習者に共通する点を見出すことができないか探っていく。計画では、4月5月で調査方法を確定し、6月から8月の間に調査を実施、9月に分析を施す。10月以降は発表用に研究成果をまとめていき、可能であれば、今年度中に学会発表を行うか研究成果を発表する場を設けて、他の研究者からのフィードバックが得られるようにする。これらの活動のため、海外研究協力者を招聘して分担者とともに調査の実施と結果を分析するための協議を行い、ともに研究成果を発表する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
上述の通り、2020年に開始した本研究は、もともと英国にある大学に在学する日本語学習者と日本の大学に在学する英語学習者それぞれが、1年間の留学を経て、どのように第二言語による相互行為能力を発達させていくのかを縦断的に調査することを目的としたものであったが、パンデミックの影響により留学そのものの機会が失われ、計画していた通りの研究を実現させることができなくなったという経緯がある。いつコロナが収束するかがわからない中で研究調査の内容の変更を度々検討してきたため、全体的に当初の計画よりも遅れをとった形で研究を進めてきた。さらに、23年度は研究分担者の産休や、代表研究者の体調不良など、複数の理由により予定していた研究のうち、部分的な成果を上げるにとどまった。中でも22年度の研究成果を踏まえた国際学会での発表や論文の執筆・完成は成し遂げることができたので、さらに、上記で述べたように、新たなデータ収集を含む横断的研究を通して、最終目的である日英比較と教育への示唆を探究するため、期間を延長して当該研究を行うことが研究者間で確認されている。
|