研究課題/領域番号 |
20K00909
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研究機関 | 旭川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
鈴木 智己 旭川工業高等専門学校, 人文理数総合科, 教授 (70342441)
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研究分担者 |
櫻井 靖子 旭川工業高等専門学校, 人文理数総合科, 准教授 (50587384)
水野 優子 旭川工業高等専門学校, 人文理数総合科, 准教授 (90435397)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | PPP / タスク / 動機づけ / 不安要因 / 個人差要因 / WTC |
研究実績の概要 |
本研究では、文法シラバスに基づいて作られている検定教科書と融和性が高いと考えられるPPP(Presentation-Practice-ProductionあるいはInput-Intake-Output)型授業に、言語形式ではなく意味・内容に焦点を当てた「タスク」を組み合わせた折衷案的指導を行い、それが英語学習減退傾向にあると考えられる学習者の動機づけなどの個人差要因にどのような影響を与えるかを検証することが目的である。 初年度は、指標とする個人差要因である英語学習に対する「動機づけ」、「不安要因」、「積極的に英語でコミュニケーションを行おうとする姿勢」(Willingness to Communicate: WTC)、およびWTCの前提条件となる「国際指向性」に関する文献調査を行い、各種先行研究で用いられた質問紙の項目から本研究で用いるべき項目を精選するとともに、被験者の特性や状況を勘案して文言の修正および項目の入れ替えを行った。調査対象となる学習者集団の社会的背景や学習環境などによっては同じ質問項目であっても弁別力が異なってくる。そのため、本調査を行う前に質問項目の妥当性を検討することは重要である。 そうした点に留意して質問紙の項目を検討した上で149名を対象にパイロット・スタディーを行った。信頼性を各指標ごとに確認をした上で各項目の妥当性を検討し、修正を加えた上で本調査で使用する質問紙を確定させた。また、CEFRのA2レベル以下の初級学習者(高等学校低学年相当)に対してどのように、またどの程度の頻度でタスクを用いた指導を行うのが現実的であるかを模索することも本研究の目的のひとつである。種々検討した結果、focused-taskは1つの単元のパートごとに、またunfocused-taskは1つの単元ごとに扱った内容に関連するものを課すのが妥当であるという考えに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は新型コロナウィルス感染症の影響を間接的に受け、質問紙のパイロット・スタディーの実施および分析に時間を要した結果、2年目でのタスクの実践で用いるタスクの開発が遅れている。2年目以降の研究体制の強化を図るため、PPPアプローチの理論と実践に明るい1名、および動機づけや学習不安などを考慮したスピーキング能力向上に関する研究を行っている1名を研究分担者として迎えることとした。 質問紙調査の作成にあたっては、被験者の回答時の負担軽減のため項目数を50以内に収めることとして項目の精選を行った。先ず「動機づけ」の測定にはAgawa & Takeuchi (2016)のEnglish Learning Motivation Scaleを基とした20項目を採用し、3項目で文言調整を行い、6項目を差し替えることとした。「英語学習に対する不安」には、「能力」「不安」「回避」の3つの下位尺度を用いた磯田(2008、2009)から各尺度で3項目ずつを採用した。さらに、WTCにつながる「国際指向性」(International Posture)の4つの下位尺度「異なる文化的背景を持つ人々との関わりに対する傾向」「海外で働くことへの関心」「国際ニュースへの関心」「世界に対して伝えたいことを持っているか」についてYashima (2009)より12項目を、また実際に起こりうる場面でのコミュニケーションに対する意欲を問う8項目をMatsuoka(2004)から採用した。 以上4つの質問紙をパイロット・スタディーとして149名に実施した。「動機づけ」の20項目について探索的因子分析を行ったところ、4因子が抽出され、信頼係数αは質問紙全体で0.861であった。同様に9項目の「英語学習に対する不安」では0.844、12項目の「国際指向性」では0.828、8項目の「WTC」では0.815と許容される数値であった。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目の今年度はHybrid PPP型の授業を実践する。当初の計画では30週にわたり実践を行うこととしていたが、6月中旬から1月中旬までの20週に変更することとした。これは、被験者となる1年生が入学後にそれまでとは大きく異なる学習環境や学習方法に適応するには一定の時間を要すること、また各種口頭活動に十分に慣れ親しませることによってタスク性の高い活動の導入を容易にすることができるとの判断によるものである。 Hybrid PPP型授業を始める前と後で、授業のコミュニケーション指向性がどのように変化したかという点も重要な観点であるが、これをCOLTと呼ばれる手法を用いて分析する。また、英語習熟度テスト(英検IBAテスト)を実施し参考資料とする。また、この指標と本実践授業移行前後での授業に対する受容度の関係性も比較可能となる。 本研究で最も重要な指標となる各種個人差要因の変化を質問紙調査を用いてHybrid PPP型授業開始前後にプリ・テストおよびポスト・テストとして実施する。また、年度終盤には被験者に対してタスクを取り入れた授業をどのように受け止めていたか、情意面での変化を検証するために短答記述形式の調査を行ってテキスト・マイニングにより分析を行う。さらに、抽出した一部の被験者に対して半構造化インタビューを行うことでより細かい質的分析を行う。 研究3年目には、実践を終えて収集した各種データの分析・検討を行い、その結果を学会での口頭および論文等で発表する準備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に予定していた国内学会における関連分野の情報収集が新型コロナウィルス感染症の影響によって学会が開催中止となったため、研究代表者と研究分担者の旅費約30万円が未使用となったことが最大の理由である。また、実践授業の少人数でのコミュニケーション活動の様子を記録する卓上型360度カメラも新型コロナウィルス感染症の影響による生産調整の影響で入手が困難になっていた。 次年度も国内および国外での学会は既にオンライン開催となることが予想されるため、旅費に当てることとしていた旅費に充てる研究費の多くが執行できない可能性が高い状況である。実際にそのような状況になった場合には、次年度より新たに加わることとなった研究分担者2名が研究最終年度に予定している国際学会に参加する際の旅費に充てることとする予定である。
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