研究課題/領域番号 |
20K00921
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高綱 博文 日本大学, 通信教育部, 教授 (90154799)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グレーゾーン / 抵抗と協力 / 第二次世界大戦 / 占領地 / 国際比較 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、戦間期から第二次大戦期にかけて日本帝国およびナチ第三帝国の占領下あるいは勢力下に置かれた中国または中東欧の各地域における現地社会に焦点を当てながら、その内部で顕在化した抵抗と協力の動的構造としての「グレーゾーン」の解明、ならびにそのアジアとヨーロッパを跨いだ国際比較を試みるものである。 その課題に応えるためにアウシュヴィッツ強制収容所の生存者である作家プリーモ・レーヴィが提唱した、<敵・味方><協力・抵抗>のように二分法で捉えることのできない「グレーゾーン(灰色の領域)」という表現を分析概念に用いる。ナチの軍事的支配下に置かれた欧州諸国の被占領地、ならびに日本の「傀儡」とも云われる汪精衛政権下における中国現地社会の内部で、人々が政治主体としていかなる目的を持って支配者との関係を切り結んだのか個別に考察しながら、それら「抵抗と協力のあいだ」に見られたバリエーションを構造化した上で比較検討を実施している。 戦後75年以上を経ても、第二次大戦期の被害を受けた側ではその歴史的救済を求める声が途絶えることはない。実のところ、国家間の調停が繰り返される陰で、ナショナル・ヒストリーから「逸脱」した人々の歴史には充分な注意が向けられてこなかったのではないか。近年台頭する歴史修正主義の論者は、「グレーゾーン」を恣意的に解釈しながら、現地住民と体制側の「癒着」をあたかも両者の同意に基づく現象と見做している。私たちはこうした非学術的姿勢を強く批判するものだが、そのためにも支配者側の思惑に従って構築された現地社会の統治体制を読み解きながら、開かれた形で「グレーゾーン」の実態を詳らかするため、今年7月には公開ワークショップの開催し、それを踏まえて論文集刊行の準備を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は日本帝国およびナチ第三帝国の占領下あるいは勢力下に置かれた中国または中東欧の各地域における現地社会を対象としており、中国・ドイツ・クロアチア・リトアニア等の現地史料調査を予定していた。しかし、コロナ禍による現地への渡航が不可能となり、国内における文献資料調査が中心となり計画通り進捗していない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は「グレーゾーンと帝国」をテーマとしてオンラインによる公開ワークショップを開催する。その準備として第二次大戦下のアジア、欧州の「グレーゾーン」=「協力と抵抗のあいだ」に関する国際比較のための事例研究の例会を複数回開催する。 来年度、コロナ禍が収束すれば本来計画していた現地史料調査を実施し、研究成果を論文集として刊行する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため海外資料調査が実施できなかったため次年度使用額が生じた。 コロナ禍が収束すれば海外資料調査を実施し、また研究分担者を追加して論文集を刊行するための共同研究を実施する使用計画である。
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