研究課題/領域番号 |
20K00921
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高綱 博文 日本大学, 通信教育部, 研究員 (90154799)
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研究分担者 |
関 智英 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (30771836)
新谷 崇 茨城大学, 教育学部, 助教 (30755517)
猪狩 弘美 桐朋学園大学, 音楽学部, 非常勤講師 (30732606)
山口 早苗 日本大学, 文理学部, 研究員 (30913066)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | グレーゾーン / 対日・対独協力者 / 占領地 / 帝国 / 歴史修正主義 |
研究実績の概要 |
本研究は、近代ナショナリズムを背景とした敵/味方、協力/抵抗、支配/服従などの二分法的歴史認識の行き詰まりを克服するために東洋史と西洋史の若手研究者と共に組織された「グレーゾーン研究会」(代表:髙綱博文)による実証研究を伴う史学方法論に関する共同研究である。第二次大戦期に日本およびナチ・ドイツの占領下に置かれた中国および東欧の諸地域で、対日・対独協力者(コラボ)がいかなる「主体性」を発揮したか国際比較を通じて抵抗と協力の狭間に位置する「グレーゾーン」について歴史学的に考察することを目的としている。 2022年度における「グレーゾーン研究会」の共同研究の成果として、髙綱博文・門間卓也・関智英編『グレーゾーンと帝国-歴史修正主義を乗り越える生の営み』(勉誠出版、2023年年3月、518頁)を刊行した。<加害/被害>の二分法で捉えられない人々の姿を「グレーゾーン」と呼んだアウシュヴィッツの生存者であるプリーモ・レーヴィの思想に触発され、第二次大戦期の日独「帝国」下に現れた統治空間を新視角から注目し、「協力者」の実像解明に取り組んた研究成果である。本書の構成は第1部「グレーゾーンのパラダイムー概念と方法」、第2部「大戦期欧州における対独協力者とグレーゾーンの諸相―国民国家の崩壊と新たな政治空間の出現」、第3部「帝国日本の占領と中国・東南アジアのグレーゾーンー既存秩序の動揺と崩壊」。 また、「グレーゾーン」概念の戦後史における有効性を考察する試みとして日本上海史研究会/アジア・アフリカ財団との共催で2022年11月26日「シンポジウム:戦後上海における対日情報戦のグレーゾーン:『改造日報』を中心に」を開催した。この試みは新たな共同研究「対日・対独協力者の責任追及とその亡命活動を通じた記憶政治の国際比較研究」に継承されるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「グレーゾーン」研究会は、コロナ禍の影響から対面会合の機会が長期間にわたり失われたが、研究会はオンライン形式で継続し、その利点を活かして積極的に外部の研究者を研究会へ招聘した。特に2021年冬から「グレーゾーン」研究と問題関心を研究書の書評会を開催し、著者の方々との学術交流に努めた。2021年7月にはオンライン・ワークショップ「戦時期「グレーゾーン」を架橋する―東アジア・欧州の被占領地からの視点」を開催し、よりオープンな形で議論の場を設けた。このような研究会の活動は髙綱博文・門間卓也・関智英編『グレーゾーンと帝国-歴史修正主義を乗り越える生の営み』(勉誠出版、2023年年3月)の刊行へと繋がった。 しかし、当初計画していた各研究者が対象地域に渡航し、①被占領地社会の統治体制②コラボの対日独協力に関する調査のため文書館で史料収集にあたることは、コロナ禍のために殆ど実施することは出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
「グレーゾーン」研究会は、今回の共同研究では第二次大戦期に日本およびナチ・ドイツの占領下に置かれた中国および東欧の諸地域で、対日・対独協力者(コラボ)がいかなる「主体性」を発揮したか国際比較を通じて実証的に明らかにすることを試みてきたが、更に新たな共同研究「対日・対独協力者の責任追及とその亡命活動を通じた記憶政治の国際比較研究」を立ち上げ、戦後にアジア・ヨーロッパで実施された「協力者」に対する漢奸裁判/粛清裁判、またその後の彼らの亡命活動により生起した記憶政治について、共同研究を通じて比較検討することを計画している。その目的は、現在の国際社会で国家間の軋轢を生んでいる歴史認識問題の構築過程を実証的見地から明らかにすることにある。 コロナ禍のために今回の殆ど実施出来なかった各研究者が対象地域に渡航し、①被占領地社会の統治体制②コラボの対日独協力に関する調査も戦後の被占領地・対日対独協力者の動向についての史料調査と併せて実施する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により国内外における対日・対独協力者の史料調査が制約されたため。 令和5年度には舞鶴引揚記念館をを訪問するなど対日協力者の史料調査を継続し、また収集したフィリピンにおける対日協力者に関する史料翻訳と検証作業を実施する。
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