研究課題/領域番号 |
20K00924
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石黒 ひさ子 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (30445861)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 墨書陶磁器 / 綱 / 花押 / 貿易陶磁 |
研究実績の概要 |
本研究では、新視点による墨書陶磁器研究とその史料的集成というテーマ達成のため、「綱」字墨書陶磁器への新解釈、墨書陶磁器の文字解釈への新基準、墨書陶磁器の出土地域ごとのデータベース作成という目標を設定した。陶磁器への墨書は、中国では宋元代を中心に多く、中国における考古学的出土物への最新情報は本研究においても非常に重要であるが、令和2年度はCOVID-19の世界的流行のため、中国へ直接渡航することは不可能となった。そこで、これまでの研究により、令和元年度末に作成した『中国出土墨書陶磁器集成』を中国で研究交流のあった研究者に送付することで、墨書陶磁器が出土する地域の研究者との連絡・研究交流を維持し、中国においては特に泉州で市舶司の発掘が進められているなど、重要な情報を得ることもできた。また中国広州で発行される論文集に「南海Ⅰ号」についての論文を中国語で公表する予定にもなっている。 「綱」字墨書陶磁器についてはマレーシアからの出土事例の情報を得たが、令和2年度は国外での資料調査は不可能であったため、具体的な出土地等研究情報収集に努めた。墨書陶磁器の文字解釈については中国沈没船「南海Ⅰ号」の墨書陶磁器で符号と分類されるものの一部にアラビア文字があることを発見し、イスラーム史研究者の協力を得て研究成果として公表した。「南海Ⅰ号」墨書陶磁器には「花押」と考えられる墨書も多数存在するが、これまで公表された報告では「花押」とは見なさない傾向がある。これについても検討を行い、「花押」や「姓」と考えられる墨書から、「南海Ⅰ号」には多くの「商業集団」が関わっていたこと、墨書することで「非商用貨物」とした可能性を考え、この論考については平成3年度に刊行の予定である。令和2年度は当初上海での国際学会等、国際学会での報告も予定したが、予定した学会はすべて延期のため未実施であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の当初の予定では、中国及び東南アジア地域で出土した墨書陶磁器の現地実見調査により、墨書陶磁器の出土データの集成を目指していた、令和2年度直前に世界流行がはじまったCOVID-19の流行が続いているため、海外調査の実施ができないこと、また日本国内の流行状況にも予断を許さない状況であり、国内における調査の実施にも困難が伴っている。 本研究においては、中国在住の研究者との連携維持に努め、日本国内各地の研究者とも情報交換の実施に努力しているが、現地で確認すべき資料についてはCOVID-19流行沈静化後とせざるを得ず、予定していた研究進展に比べ、進捗状況にやや遅れを生じている。 COVID-19の流行が予期していた以上に長期化しているため、本研究では、海外の研究者との通信による連携を強化するとともに、日本国内における関連資料の検討にも重心をおき、国内での移動が可能になり次第、現地調査・資料実見が可能になるよう、準備を進めている。また日本国内における資料集成についても福岡等の研究者と連携し、実現可能となるように準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の流行の長期化という予期していなかった状況から、本研究では、中国・東南アジア地域での墨書陶磁器資料だけではなく、新たに日本国内での資料集成の推進という方策を考えている。具体的には、すでに墨書資料集成が存在している博多遺跡群の見直しである。博多遺跡群については平成12年までの墨書集成が存在するが、刊行後すでに20年が経過している。また現在発掘中の第221次調査は博多遺跡群で最大規模の発掘であり、中世の港湾遺跡が確認されるとともに、多数の墨書陶磁器が出土し、本研究で着目する「綱」字墨書も出土している。また本研究代表者による海外研究者との研究交流の成果もあり、中国を始め海外でも博多遺跡群出土墨書陶磁器資料には関心が高まっている。このため、平成12年度以降の博多遺跡群から出土した墨書資料の集成を令和3年度以降に実施する予定である。すでに平成12年までの墨書資料集成については、刊行者とも連絡し、集成作業の協力先への依頼も行っている。以前の集成が博多遺跡群のみを対象としているため、本研究においても、第一の目的としては博多遺跡群について、第221次調査の内容までを集成することとする。さらに、博多遺跡群の周辺では、大宰府観世音寺や箱崎遺跡等墨書陶磁器を出土する遺跡があるため、これら博多遺跡群周辺の遺跡についても調査と集成を拡大していく予定である。 「綱」字墨書については、日本国内で博多遺跡群の他、複数の遺跡から出土の報告がある。特に注目されるのは、海外交易に直接関わる地ではない、兵庫県尼崎市大物遺跡や京都平安京からの出土である。また三重県安濃津遺跡には、日本製の山茶碗に墨書が見られ、その中には「綱」字ではないかと推測されている文字がある。安濃津は中世日本を代表する港湾の一つであり、流通の拠点でもある。このような日本国内の墨書陶磁器資料による考察も今後推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の世界的流行により、予定していた海外での調査・資料実見及び日本国内おける調査・資料実見、また国際学会への出席が、令和2年度内には最終的に不可能となった。予定していた調査等は次年度以降可能となり次第、実施、学会出席を予定し、使用の予定である。また、研究計画として博多遺跡群など日本国内出土の墨書陶磁器集成の作成を計画しているため、次年度以降の集成作成のためにも使用を計画している。
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