本研究の目的は、前近代の東アジア(日本・中国・韓国・ベトナム・琉球)の宮廷工芸 (宮殿・調度・服飾)を対象とし、東アジアの実情に即した物質文化研究の体系を構築することにある。本研究の学術的な特色は、東アジア文化圏を中国大陸・日本列島・朝鮮半島・越南地域・琉球諸島として設定することにある。本研究の独創的な点は、東アジアの宮廷は外廷と内廷という空間から構成されており、その外廷と内廷を形成する宮廷工芸に着目し、各宮廷の共通規格と相異特色を相対的に検証することにある。その研究方法は、東アジアの宮廷工芸について実物資料・文献史料・生活習俗の観点から調査し、諸調査の総合に基づく検証を行う。本研究の成果は、東アジアの諸文化の相異特色について合理的に理解し、今日的課題である多文化共生に資する歴史研究となることを念頭におく。 2022年度は、日本宮廷について東京国立博物館が所蔵する鳳輦や京都の葵祭で使用される工芸品などの調査を行ない、中国宮廷について國立故宮博物院(台北)の特集展示「避暑山荘」の出陳資料の調査を行ない、韓国宮廷についてソウル・南原・大邱の博物館・史跡の調査を行ない、琉球宮廷について那覇市歴史博物館・浦添市美術館・徳川美術館などの工芸品の調査を行なった。調査の成果は著書(共著)『もっと知りたい中国美術』(東京美術)および特別展「琉球」(東京国立博物館・九州国立博物館)、「東京国立博物館のすべて」(東京国立博物館)、特別デジタル展「故宮の世界」(東京国立博物館)、ミュージアムシアター「故宮VR 紫禁城・天子の宮殿」(東京国立博物館)において展示・図録・講演などの方法によって公表した。 研究期間全体を通じては、コロナ禍に伴う海外渡航制限が行なわれているなかで、国内において行なえる調査を進め、リモート会議を行ない、所属する博物館での展覧会などの機会を利用して研究成果の公表に努めた。
|