研究課題/領域番号 |
20K00931
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研究機関 | 公益財団法人元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
木沢 直子 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (50270773)
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研究分担者 |
小村 眞理 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10261215)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 古代中世東アジア / 服装文化 / 頭部の装い / 髪型 / 身分表象 |
研究実績の概要 |
本研究は、古代から中世の日本列島を対象として。服装文化の特徴と変遷を整理するとともに、その背景として東アジア地域周辺から日本列島への影響の実態を検証することを目的とする。服装は、単なる装いにとどまらず、各時代および地域の社会、精神文化、慣習と密接に関わる。その一部を構成する頭部の装い(髪型、装身具、冠り物)もまた、極めて視認性が高い重要な要素であり、東アジアにおける地域間交流を背景とした日本列島への影響という観点から検証する意義が有ると考える。 令和3年度は、前年度に予定したように、日本列島における古墳時代から飛鳥、奈良時代に至る頭部の装飾、すなわち櫛の変遷の背景について、中国大陸と朝鮮半島からの新たな慣習の導入という観点から検証した。その成果の一部は、日本列島における竪櫛の消滅と横櫛の出現時期およびその背景に焦点をあて、朝鮮半島における櫛の形態変遷と新羅、百済、加耶の地域的特徴を明らかにしたうえで、新羅地域の櫛との関連を指摘したもので、論文として発表した(1)。また、文献史料(主に中国正史)にみえる東アジア各地域の服装に関する記述に着目し、各時代における特徴を確認するとともに、日本列島については『日本書紀』『続日本紀』のほか、養老律令、『令集解』の衣服令から、頭部の装いに関する記述を抽出し整理した。 このほか、中国大陸、朝鮮半島、日本列島の服装を知る上で参考となる高句麗壁画と隋代および唐代の壁画について資料を収集し、図像の抽出と整理を行った。本作業については現在も継続中であり、令和4年度にも調査を行い、文献史料と壁画等の図像資料との比較検証を行う予定である。 (1)「日本列島における横櫛の出現と系譜 -韓半島の櫛との比較を通して」『星空の考古学』65-76頁 ナベの会考古学論集 第2集、2021年12月
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き、当初計画した国内外での現地調査が難しい状況にある。令和3年度も、中国と韓国で予定していた現地調査については、対象とする資料の関連書籍と参考文献からの情報収集という方法に変更して研究を遂行している、 文献史料の調査については、中国正史を中心に服装関連の記述を抽出するとともに、先学の研究成果も参照しながら、髪型や冠り物など頭部の装いについて各時代における特徴を整理した。今年度の作業の結果、文献史料にみえる漢代以降の服装は、祭祀や儀式のなど公的な場において官職等身分的な序列を表すための一要素である。頭部の装いもまた例外ではなく、衣服とともに、身分表象として機能していたことを確認した。また、周辺地域に関する記述については、その内容を慎重に検証する必要があるという前提があるものの、頭部の装いを含む服装が、中国各時代の中央から周縁地域へと波及しており、特に頭冠など身分表象としての冠り物に顕著に表れていることが分かった。以上、文献史料の調査と記述内容の整理については概ね順調な進捗状況である。 図像資料については、令和3年度は資料収集と整理が中心となり、図像のトレースとそれに基づく冠り物の構造の解析作業にまで至らなかった。本作業は最終年度となる令和4年度にも継続して実施し、文献史料と図像資料双方の比較検証により総括する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
出土資料については、引き続き国外で現地調査を実施することは難しい状況であると考える。そのため令和4年度も、調査対象とする資料の関連書籍を参考とするほか、以前より情報交換を行っている服飾関連技術史を専門とする中国、韓国の研究者の協力も得て情報を収集することで現地調査の代替とする。国内調査については、令和3年度に平泉(平泉町/平泉文化遺産センター)での調査を実施した。令和4年度は十三湊(五所川原市/市浦歴史民俗資料館)および大宰府(太宰府市/九州国立博物館)、博多(福岡市/福岡市博物館)での調査を行う予定である。また、国立国会図書館等で公開されているデジタルデータなども積極的に活用する予定である。これまでに収集した壁画等の図像資料については、画像のトレースを行い、図化するとともに、それに基づいて構造や形態など細部を検証する。図像資料の図化は研究代表者が行い、分担者と協力して検討する。 文献史料については、これまでに整理した中国正史の記述に加えて、朝鮮半島における高麗時代の服装に関する記述が見られる『高麗史』輿服志(朝鮮・鄭道伝)、『高麗図経』(宋・徐兢)を検討する。これらから抽出した内容を整理し、時代および地域による変遷を整理するとともに日本列島との比較を行う。 以上の方法で収集した図像資料と文献史料の調査結果を総括し、日本列島、中国大陸、朝鮮半島における服装の変遷および、それらの伝播と背景を明らかにする。令和4年度は本研究課題の最終年度になるため、調査成果報告書を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に引き続き、令和3年度についても当初計画していた国内外での現地調査が困難な状況であった。特に、国外調査における旅費および現地での謝金として計上していた費用に変更が生じた。国外および国内現地調査の一部については、代替調査として関連書籍や参考文献からの資料収集に調査方法に変更し、課題を遂行している。一連の変更により、図書購入(物品費)および文献複写費(その他)の支出が増えた。これに伴い、当初の品目別内訳費にも変更が生じ、令和3年度未使用額(55万円)が生じた。 令和4年度は報告書作成費を含む当初の請求額(90万円)に、上記の令和3年度未使用額を加えた145万円を請求している。令和3年度未使用費用からは、主に未実施の国内調査と、今年度の主な作業となる図像トレースに必要な液晶モニター、デジタルカメラ、データ保存に必要な外付けハードディスクなどを購入する予定である。
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