研究課題/領域番号 |
20K00932
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
引野 亨輔 東北大学, 文学研究科, 准教授 (90389065)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 在村知識人 / 文化環境 / 通俗仏書 / 宗派意識 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世中後期に羽前国村山地域における浄土真宗門徒(東本願寺派)の中心的存在であった工藤家の古文書を調査して、同時期の在村知識人がどのような文化環境に置かれていたのかを明らかにしようとするものである。 ただし、今年度も昨年度に引き続いてコロナウィルスの流行により、当初予定していた工藤家での史料調査が全く実施できなかった。そこで、今年度は当初の計画から分析手法を大きく変更し、江戸時代の在村知識人たちが読んだ通俗仏書の叙述分析を中心課題として研究を進めた。 通俗仏書とは、文字通り誰にでも分かりやすい表現で記された仏教書である。そこで、近世前期の代表的な通俗仏書である『阿弥陀経和談鈔』や『観音経和談鈔』は、宗派の枠を超越した性格を持ち、どの宗派の僧俗でも共有し得るものであったことが分かる。しかし、近世中後期以降になると、『阿弥陀経絵抄』のように特定宗派(浄土真宗)の主張を多分に盛り込んだ通俗仏書が増加してくる。宗派意識の明確化は近世仏教の特徴とされているが、中後期になると、通俗仏書にまでその影響が及んでいくわけである。 なお、羽前国村山地域の浄土真宗門徒であった工藤儀七も、自ら東本願寺派高僧の講釈を聴聞して講義録を作成するなど、強固な宗派意識を持って日々の学びを行っている。そこで次年度以降は、通俗仏書の変容が、工藤儀七の教養形成にどのような影響を及ぼしているのかという観点から、引き続き研究を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウィルスの流行により、当初予定していた工藤家での古文書調査が全く実施できなかったため、研究計画が思うように進捗しなかった。 ただし、今年度は在村知識人が読んだ通俗仏書の叙述分析へと中心課題を変更したことにより、近世前期から中後期へと如実に変容する通俗仏書の性格を明らかにするという大きな成果を上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
予定していた工藤家古文書調査再開の明確な目途は立っていない。ただし、今後は工藤家から一時的に古文書を借用し、東北大学の研究室で古文書の目録作りや写真撮影を行うことにより、調査再開の可能性を探りたい。 また、今後のコロナウィルス流行の状況次第では、今年度も思うように古文書調査を実施できない可能性がある。そこで、江戸時代刊行の通俗仏書分析も、同時並行で進め、その成果を積極的に論文化していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス流行の影響により、当初予定していた古文書調査や学会出張が一切実施できなかったため、旅費や古文書読解のアルバイト謝金を使用することがなく、大幅に使用額がすくなくなった。 そこで、今年度は工藤家での古文書調査を断念し、借用した古文書を東北大学の引野研究室で写真撮影する方法によって調査再開を目指す。調査再開後は、前年度の旅費と謝金も含めて、速やかな予算執行に努める。
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