研究課題/領域番号 |
20K00933
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
遠藤 珠紀 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (10431800)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 日本中世史 / 古記録 / 制度史 / 史料論 / 朝廷 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、鎌倉期から室町期を中心に、古記録の収集及び総体的な検討を行い、トータルな形で中世朝廷における情報の流れや政務運営システムの検討を試みるものである。その遂行のため本研究課題の研究計画は大きく二つの柱をたてた。まず古記録の所在(原本・写本の所在)を調査し、特に重要なものは史料的性格を明らかにし、翻刻・フルテキストデータベース作成などの歴史情報資源化を行うこと。二つ目として、これらの知見を生かして当該期の政治史・制度史等の考察を行うことである。 本年度も新型コロナ禍のため、史料の原本調査については十分には行うことができなかったが、比較的感染状況の落ち着いた時期を見計らい、北野天満宮北野文化研究所・国立歴史民俗博物館・早稲田大学などに赴き調査を行った。各調査先には、ご高配を賜り感謝する。また東京大学史料編纂所所蔵の原本、架蔵の写真帳及びこれまでの調査に基づき史料的検討を進めた。これらにより東京大学史料編纂所の伝『大外記中原師生母記』、「東京大学史料編纂所所蔵の陰陽道関係史料」(林淳編『新陰陽道叢書』第五巻特論、名著出版)、天理大学附属天理図書館所蔵の『兼見卿記』紙背文書、早稲田大学所蔵『宣教卿記』、歴史民俗博物館所蔵『勘仲記』『綱光公記』、賀茂別雷神社所蔵『賀茂神主経久記』などの翻刻、紹介を行った。 また豊臣秀吉の聚楽行幸を描いた「聚楽行幸記」の諸写本についても検討を進め、「天正十六年『聚楽行幸記』の成立について」(井上泰至編『アジア遊学二六二 資料論がひらく軍記・合戦図の世界』)として発表した。そのほか「豊臣秀吉の唐冠と子息秀頼」(『國學院雑誌』一二二―一一)、「協業関係が成立していた朝廷の官人、幕府の官僚」(久水俊和編・日本史史料研究会監修『「室町殿」の時代』山川出版)などの論考を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、中世日本の古記録の総体的な検討を行い、主に朝廷における情報の流れや政務運営システムを探っていかんとするものである。調査対象として①中級実務官僚である名家の歴代の日記、②下級実務官僚の歴代の日記、③社家・女性の日記に注目して検討するとした。本年は①として中級実務官僚広橋家の『勘仲記』『綱光公記』、中御門家の『宣教卿記』を、③として正親町院御所の女房による『院中御湯殿上日記』、長年女房勤めをし、②に該当する外記の家を支えた播磨局による伝『大外記中原師生母記』、京都賀茂別雷神社の社務賀茂経久による『賀茂経久記』の紹介を行うことができた。またこれらをもとに当該期の政治や公武関係にかかわる論考を発表した。新型コロナ禍による影響はあるが、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度以降も研究計画・方法の基本概要は同様であり、新型コロナ禍の状況を勘案しつつ継続して調査を進めていく。具体的には『綱光公記』・『宣教卿記』・『院中御湯殿上日記』・賀茂別雷神社の記録などを考えているが、研究の進捗に合わせて、収集の範囲を拡げる、あるいはターゲットを絞りつつ遂行していく。狭義の「日記」に留まらず、文書類、符案など周辺史料との関連付けも積極的に試みていきたい。研究の成果は適宜論文あるいは史料紹介として公表する。調査の進展に伴い、当該期の古記録全体の特質の検討、古記録学の構築も進むことが見込まれる。調査先としては、国立歴史民俗博物館、神宮文庫、京都府立京都学・歴彩館、公益財団法人陽明文庫、金沢市立玉川図書館、早稲田大学附属中央図書館、名古屋市蓬左文庫、西尾市岩瀬文庫などを予定しているが、調査の進展により随時変更することになろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ禍のため、史料調査のための国内出張を計画通りに行うことができなかった。その結果、次年度使用額56344円が生じている。新型コロナ禍の状況を勘案しつつ、今年度以降に次年度使用額を含めて、各地での調査を進めていく。また得られたデータの整理を進めるために、大学院生の助力を得、その謝金として使用したい。
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